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- 現職 :
- 東京外国語大学大学院総合国際学研究院 教授
- 最終学歴 :
-
九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程(単位満期取得退学)(2008年)
- 主要職歴 :
-
2009年 京都大学人文科学研究所 助教
2013年 名古屋大学大学院国際開発研究科 准教授
2022年 東京外国語大学 大学院総合国際学研究科 教授
- 現在に至る
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九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程(単位満期取得退学)(2008年)
2009年 京都大学人文科学研究所 助教
2013年 名古屋大学大学院国際開発研究科 准教授
2022年 東京外国語大学 大学院総合国際学研究科 教授
『フィリピン──強権を求めた「新生」への希望』岩波書店、2026年.
“LGBT” Politics: Asian Perspectives, Trans Pacific Press, 2025 (coedited with Kaoru Aoyama; Tsukasa Iga; and Keiko Tsuji Tamura).
「意味の政治を解釈する──フィリピン地域研究からの場外乱入・反則技・ラブレター」『日本比較政治学会年報』26: 1-31、2025年.
『現代フィリピンの地殻変動──新自由主義の深化・政治制度の近代化・親密性の歪み』花伝社、2023年(原民樹・西尾善太・白石奈津子との共編著).
“Fake News and State Violence: How Duterte Hijacked the Election and Democracy in The Philippines,” in Robin Ramcharan and James Gomez (eds.), Fake News and Elections in Southeast Asia: Impact on Democracy and Human Rights. Routledge, 2022.
“Rise of ‘Business-Friendly’ Local Elite Rule in the Philippines: How the Valdezes Developed San Nicolas, Ilocos Norte,” Southeast Asian Studies 10(2): 223-252, 2021.
『東南アジアと「LGBT」の政治──性的少数者をめぐって何が争われているのか』明石書店、2021年(青山薫・伊賀司・田村慶子との共編著).
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2012年 比較社会文化博士(九州大学)
「日常生活から読み解くフィリピンの民主主義、市民社会、ポピュリズム、 アナキズム」に対して
日下渉氏は、1998年、スタディーツアーに参加して初めてフィリピンを訪れ、マニラ郊外の不法占拠地やミンドロ島の先住民の村において日常生活を経験した。
さらに翌年には、レイテ島の貧しい村々で、水道や道路などを村人と共に建設するワークキャンプに熱中した。汗まみれで共に働き、ヤシ酒を呑み交わし、歌って踊って笑い合うという、日常を共に生きる経験が、彼の独創的な研究の出発点になったと思われる。
2002年にフィリピン大学に留学した日下氏は、都市貧困層の視点から政治を理解しようと、マニラ首都圏ケソン市の不法占拠地に住み込み、露天商の家族と一緒に街頭でのフルーツ販売に従事した。
その過程で、国家機関による露天商や不法占拠者の排除政策に直面し、都市貧困層による異議申し立てや、末端の役人に対する買収などの諸活動を参与観察することとなった。
こうした経験に基づいて、2012年3月、博士号学位請求論文「フィリピン民主主義と道徳政治」を九州大学大学院比較社会文化学府に提出し、翌13年4月に『反市民の政治学』を上梓した。
本書は、「民主主義」に関する議論を英語で先導する中間層の「市民圏」を捉える一方、スラムや街頭においてタガログ語など土着語で生活する貧困層の「大衆圏」をも捉えることによって、二つの言説空間を対比的に分析し、両者の拮抗としてフィリピンの民主主義と市民社会を描くことに成功した。
2016年にドゥテルテ大統領が当選し、深刻な国家暴力を行使する一方で、8割もの有権者から支持を得ると、日下氏はドゥテルテのポピュリズム研究に着手する。
同年、かつてワークキャンプを行ったレイテ島の町で麻薬王の父が町長になり、ドゥテルテ政権によって殺害される事件が生じた。また、慣れ親しんできたマニラの不法占拠地でも麻薬戦争の暴力が吹き荒れた。
さらに2019年、サバティカルを取得して、ボホール島のタグビララン市に家族と共に住み込むと、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まり、同政権による「世界でもっとも厳しく、長いロックダウン」を経験した。
こうした機会を通じて、研究を深めることとなった。
日下氏が、ドゥテルテのポピュリズムを理解するために着目したのは、経済成長とグローバルな就労で台頭してきた「新時代のフィリピン人」である。彼らは、貧困世帯の出身でありながら、看護、海運などの専門職に特化した高等教育を経て、グローバルなサービス産業に従事する。一定の社会上昇を経験しつつも、既存の不平等とグローバルな新自由主義の不安定性によって、思い通りの成功を収めてはいない。彼らは「善き市民=国民」としての認識を深めることで、社会の頂点で既得権益を強化するエリートに対しても、社会の底辺で怠惰・麻薬・犯罪に溺れる人々に対しても敵対を強め、ドゥテルテの強権を支持した、と分析する。そうした分析結果は、最新刊『フィリピンー強権を求めた「新生」への希望』(岩波新書)にまとめられ、私たちのフィリピンに対する理解促進に大きく貢献している。
日下氏はまた、スラムに暮らす都市貧困層、離島に隔離されたハンセン病者、性的マイノリティ、災害被害者、麻薬常習者といった周縁化された人々と日常生活を共にし、彼らの視点から法の支配をすり抜けて「土着の秩序」を生み出していることを複数の論文で明らかにしてきた。周縁化された人々の諸活動をアナキズムの実践として捉え、総合的な理解に寄与したと言える。
以上のように、日下氏の研究は、ミクロなフィールド調査に根差しつつ、文化人類学など他領域と架橋して、民主主義とは何かという現代社会の大きな課題に迫っている。政治学の領域ではもっぱら、統計分析やゲーム理論などの数理モデルに依拠する傾向が強いなか、極めて独創性が高い。 研究対象のフィリピンでも、現地の文化や文脈を内在的に理解した上で、外部から新たな視点をもたらす研究として高い関心を集めている。現地の学会によって招聘された基調講演だけでも、フィリピン社会学会(2019年10月)、社会倫理学会(2026年2月)、フィリピン政治学会(2026年4月)がある。さらに、様々な大学やソーシャルメディアで、フィリピンの学生、若手研究者、NGO活動家らが同氏の研究をめぐって議論を展開するなど、社会的にも大きな影響を与えている。
以上の理由により、日本発の地域研究の可能性を広げた業績を持ち、また今後の活躍も大いに期待できる日下氏を、大同生命地域研究奨励賞に推薦する。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)