- 現職 :
- 東京大学社会科学研究所 准教授
- 最終学歴 :
- 慶應義塾大学大学院経済学研究科満期退学(2012年)
- 主要職歴 :
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2012年4月~2015年3月 大学共同利用機関法人人間文化研究機構
(NIHU)地域研究推進センター研究員 兼
東京大学社会科学研究所 特任助教
2015年4月~2017年3月 東京大学社会科学研究所 専任講師
2017年4月 東京大学社会科学研究所 准教授
現在に至る
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Ito, Asei, Jaehwan Lim, & Hongyong Zhang. “Remembering Li Keqiang: Policy Divergence in Zhongnanhai and Its Economic Consequences,” The China Quarterly, pp. 1–19, 2025.
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高木佑輔・伊藤亜聖『新興アジアの政治と経済』放送大学教育振興会, 2024 年, 252頁.
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伊藤亜聖『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か 』中公新書, 2020年, 246頁.
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伊藤亜聖・高崎早和香編著『飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向』ジェトロ, 2020年4月, 238頁.
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Goto, Kenta, Tamaki Endo, & Asei Ito eds. The Asian Economy: Contemporary Issues and Challenges. Routledge, 2020, 266 pages.
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伊藤亜聖「中国・新興国ネクサスと「一帯一路」構想」末廣昭・田島俊雄・丸川知雄編著『中国・新興国ネクサス: 新たな世界経済循環』東京大学出版会, 2018年12月, pp.17-74.
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遠藤環・伊藤亜聖・大泉啓一郎・後藤健太編著『現代アジア経済論「アジアの世紀」を学ぶ』有斐閣, 2018年3月, 337頁.
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伊藤亜聖『現代中国の産業集積――「世界の工場」とボトムアップ型経済発展』名古屋大学出版会, 2015年, 232頁.
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2014年 経済学博士 (慶應義塾大学)
「現代中国並びに新興国のデジタル社会化とイノベーションを切り口とした新しい地域研究の創成」に対して
伊藤亜聖氏は、地域研究の可能性を独創的な視点で創造的に拡張し、新たな領域を切り開きつつある。その研究は、経済学を基盤として、情報や技術のイノベーションの精密なフィールドワークを積み重ね、地域研究の分野に新たな領域を開拓し、重厚で精緻な実証研究を展開してきた。またグローバル化が急激に進展しつつある現代の地域研究は、一つの国家、一つの地域に特化した学知であるだけでなく、それを包み込み支える地域や世界を総合的に把握し分析する学知であることが要請されているが、伊藤氏は中国研究に軸足を置きながら、この挑戦的な要請に見事に応えて新たなタイプの地域研究を発展させている。その方法は、綿密な参与観察とフィールド調査、そして経済学的分析、さらにはそれらを統合する理論的考察をひと繋がりのものとして構築する独自のものであり、学際的な研究者や多様な企業家との交流によって、学問分野の垣根を越え、社会とも深く繋がる研究の可能性を作り出している。
こうした伊藤氏が確立しつつある新たな地域研究の土台となる、これまでの研究の方向と卓越した成果については、以下の4点にまとめられる。
第一は、現代世界における中国経済の高度成長の要因を、世界的な日用雑貨卸市場のある浙江省義烏を皮切りに広東省における精緻なフィールド調査によって明らかにしたものだ。それまで低品質・低価格を特徴としてきた中国の商品が、なぜ欧米を含むグローバルな市場で圧倒的に評価されるようになったのかについて、企業家やバイヤーとの膨大なインタビュー調査などによって解き明かした。それは多様なニーズをIT技術を駆使して的確に把握し、異なる部品や資材を組み合わせて製品を短期間のうちに開発、製造、供給できるネットワークの構築であることを説得的に提示した。
第二の研究群は、デジタル化や最新テクノロジーに注目したもので、中国の産業がなぜ急速に国際競争力を獲得したのかを解き明かすものだ。具体的には、深圳のベンチャー企業に密着してドローンなどの最先端製品の開発と成功の過程を詳細なデータをもとに分析を試みた。そこでは、閉鎖的環境で技術開発を行い、時間をかけて試作を重ねて製品を完成させる従来の国際基準とは全く異なり、「集積の利益」を活かして個別の企業を超えたオープンなネットワークでオープンなリソースを活用するスピード重視の「多産多死」のカエル跳び型のイノベーションを特徴としていることが明らかになった。さらに伊藤氏は、近年、中国で登場したハイパフォーマンスな大規模言語モデルやAIなどの最先端技術革命に着目し、その研究成果を人工知能学会で発表するなど、こうした新たな技術が支配的となる時代の地域研究のあり方(可能性と困難)についても挑戦的な考察を試みている。
第三は、中国研究を超えて、新興国・途上国のデジタル化社会に関する研究である。伊藤氏は、中国に軸足を置きつつも、東南アジア、南アジア、中東、アフリカ社会にも視野を広げ、とりわけそうした新興国社会における新しいデジタルな解決策がもたらす可能性と、同時にそれがもたらす潜在的な脆弱性に着目した。そしてデジタル化時代のイノベーションは、従来のように欧米や日本が開発して新興国に波及させる流れだけではなく、新興国によって新製品やイノベーションが生み出されそれがグローバルに還流されていくという新しい逆転モデルを提示したのである。
伊藤氏の第四の研究群は、2010年代以降の中国社会の変貌を正面からできる限り客観的に捉えようとする、とりわけ困難な課題に挑戦しているものだ。政治経済の論点に触れるこの難題について、伊藤氏は膨大なテキストデータを活用し量的テキストデータ分析を通してアプローチを試み成果をあげている。
このように伊藤氏の研究は、現代社会の最新のそして解明困難な現象を切り口に、一つの専門分野の枠に収まらない知的挑戦と、特定の地域に収まらない空間的広がりを展望した独自の新しい地域研究を切り開いている。そうした知的挑戦への高い社会的評価は、これまでに、第4回清成忠男賞、第37回大平正芳記念特別賞、第22回読売・吉野作造賞などの受賞歴からも証明されている。
以上、独創的で挑戦的な研究業績を重ね、現代地域研究の可能性を拡張し、その醍醐味を広く発信してきた伊藤亜聖氏が優れた研究能力を有していることは明らかであり、将来的にも中国と新興国社会を対象とした新しい地域研究の国際的牽引者となる研究者として期待できることから、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)