- 現職 :
- 京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授
- 最終学歴 :
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東京大学大学院総合文化研究科博士課程
(2004年単位取得満期退学、2007年学位取得)
- 主要職歴 :
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2006年 東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻 特任助手
2007年 東京大学大学院「人間の安全保障」プログラム 助教
2011年 京都大学地域研究統合情報センター 准教授
2017年 京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授
現在に至る
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『夢みるインドネシア映画の挑戦』〔英明企画編集, 2021〕
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「ポスト・スハルト体制期のインドネシア映画における家族主義」〔『インターカルチュラル』19, 2021〕
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“Catatan Pengalaman Pengarsipan Kenangan Bencana Tsunami Aceh”〔Pengetahuan dan Praktik Lokal untuk Pengurangan Risiko Bencana: Konsep dan Aplikasi. USK Press, 2020, Alfi Rahmanとの共著〕
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「地域の文脈を踏まえて復興を理解する:2004 年インド洋大津波被災地アチェの経験から」〔『日本災害復興学会論文集』15, 2020〕
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『被災地に寄り添う社会調査』〔京都大学学術出版会、2016〕
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『歴史としてのレジリエンス―戦争・独立・災害』〔京都大学学術出版会, 2016,川喜田敦子との共編著〕
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『記憶と忘却のアジア』〔青弓社, 2015, 貴志俊彦・山本博之・谷川竜一との共編著〕
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『災害復興で内戦を乗り越える―スマトラ島沖地震・津波とアチェ紛争』〔京都大学学術出版会, 2014〕
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“Social Flux and Disaster Management: An Essay on the Construction of an Indonesian Model for Disaster Management and Reconstruction”. 〔Journal of Disaster Research. 7(1), 2012, 山本博之との共著〕
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「流動性の高い社会における復興:2009年西スマトラ地震における日本の人道支援の事例から考える」〔『日本災害復興学会2010神戸大会論文集』, 2010, 山本博之との共著〕
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“Among Bangsa, Keturunan, and Daerah: Peace-Building and Group Identity in the Law on Governing Aceh, 2006”〔Bangsa and Umma: Development of People-Grouping Concepts in Islamized Southeast Asia, Kyoto University Press, 2011〕
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「2006年アチェ統治法の意義と展望:マレー世界のリージョナリズム」〔『地域研究』8(1)、2008〕
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「アチェ紛争の起源と展開:被災を契機とした紛争の非軍事化」〔『ODYSSEUS』11, 2007〕
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「東南アジアにおけるナショナリズム研究の課題と現状」〔『東南アジア 歴史と文化』32, 2003〕
- 「アチェ紛争:ポスト・スハルト体制下の分離主義的運動の発展」〔『民族共存の条件』、早稲田大学出版会, 2001〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2007年 学術博士(東京大学)
「内戦下インドネシア・アチェ州における地震津波災害後の社会変化と 復興に関する学際的地域研究」に対して
西芳実氏の研究の最大の功績は、2004年12月26日に発生したインドネシア・スマトラ島沖地震と、それに伴う津波災害、さらには災害復興について、スマトラ島のアチェ州を対象にフィールドワークを実施し、災害発生直前まで続いていた内戦と絡めながら同地域の社会変化を描き出した点にある。西氏は、17万人以上が犠牲となったこの自然災害から2か月後に早くも現地を訪れ、被災状況の記録と復興過程の定点観測を開始し、工学、防災学、人道支援の専門家との分野横断的共同研究の成果を踏まえて後に『災害復興で内戦を乗り越える』(京都大学出版会、2014年)にまとめた。アチェにおいては、1970年代以降インドネシアからの分離独立派とインドネシア政府との間で内戦状態が続き、一般住民は、そのはざまで服従か脱出というような過酷な選択を強いられる状況に陥っていた。西氏は、その最中に起きた大地震と津波の災害を契機に、国内外からの支援者が大量に流入し、支援者が普遍的、あるいは理想主義的な復興モデルや実践活動をもたらした点に注目した。とくにアチェの人々が、復興事業に参加することで外部の新たな価値や知識と遭遇するだけでなく、それらを自らの社会内部に取り込む様相を詳細に描き、この過程自体が内戦後の社会復興につながることを見事に提示した。災害と内戦という二重の困難を乗り越える過程を追うことで、復興が単なる物理的な再建にとどまらず、社会的・文化的な再生を伴う複雑なプロセスであることを明らかにしているといえる。さらに著書『被災地に寄り添う社会調査』(京都大学学術出版会、2016年)において、被災地での社会調査の技法をわが国で初めてまとまった形で紹介している。災害後の地域社会を深く理解し、復興の過程を支援するための基盤を提示しており、災害と紛争からの復興に関心のある研究者や実務者に対する貢献は多大である。
西氏の研究成果として挙げるべき二点目は、情報学の活用による地域研究資料の集積と発信である。京都大学地域研究統合情報センターの「災害対応の地域研究」プロジェクトならびに京都大学東南アジア地域研究所の「データサイエンスで切り拓く総合地域研究ユニット(DASU)」の一員として、地域研究の情報化に取り組んできた。それには、フィールド調査のデジタルアーカイブ化や、個人情報を保護したステークホルダー分析手法の開発、現地語オンライン情報を活用した小規模災害の社会的負荷の定量的分析など、多岐にわたる活動が含まれる。こうした中で西氏はアチェ州での津波被災地のフィールドノートを地図上で可視化するフィールド・アーカイブを構築している(アチェ津波メモリーグラフ)。そこでは地域社会の復興過程を深く理解するため、被災地の変遷を視覚的に追体験できる機能を実装させた。こうした西氏の取り組みは、災害復興や地域社会のレジリエンスに関する新たな知見を生み出す基盤を提供するものであり、ひいては地域研究の存在意義を高めることにつながると考えられる。
西氏の研究の第三の特徴は日本とインドネシアにおける社会連携活動である。地域住民や行政府、教育機関とともに行うワークショップやシンポジウムの開催を通して、地域の伝統的な知識や文化資源を次世代に継承することを目指す活動を展開してきた。これらは、上記の研究活動から派生したものだが、災害知識の継承の持続性を担保する活動としても位置付けられよう。
以上のように、西氏の取り組みは、災害復興や地域社会のレジリエンスに関する新たな知見を提供するばかりでなく、情報学を活用して発信するなど、地域研究の新たな可能性を切り拓くものであり、今後の研究の発展が十分に期待できる。よって、選考委員会は一致して西芳実氏を大同生命地域研究奨励賞に推薦することを決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)