
- 現職 :
- 東京大学 東洋文化研究所 教授
- 最終学歴 :
- 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(2002年)
- 主要職歴 :
-
1997年 東京大学大学院経済学研究科・経済学部 助手
2004年 和洋女子大学人文学部 准教授
2007年 日本大学生物資源科学部 准教授
2009年 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院 准教授
2014年 東京大学東洋文化研究所 准教授
2017年 東京大学東洋文化研究所 教授
現在に至る

1997年 東京大学大学院経済学研究科・経済学部 助手
2004年 和洋女子大学人文学部 准教授
2007年 日本大学生物資源科学部 准教授
2009年 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院 准教授
2014年 東京大学東洋文化研究所 准教授
2017年 東京大学東洋文化研究所 教授
現在に至る
青山和佳編『東洋文化 102 号: 開かれていく人文知―もう一つの世界につながるために 2』東京大学東洋文化研究所, 2022 年
「アンソニー・リード著, 太田淳・長田紀之監修, 青山和佳・今村真央・蓮田隆志訳,『世界史のなかの東南アジア―歴史を変える交差路』上下巻, 名古屋大学出版会,2021年
Aoyama, Waka. An Intimate Journey: Finding Myself Amongst the Sama-Bajau.Kyoto University Press + Tran Pacific Press, 2020.
青山和佳編『東洋文化 100 号:開かれていく人文知―もう一つの世界につながるために』東京大学東洋文化研究所、2020 年
Aoyama, Waka. “To Become ‘Christian Bajau’: The Sama Dilaut’s Conversion to Pentecostal Christianity in Davao City, Philippines, 1997-2005.” Filipinas Journal of the Philippine Studies Association. (1): 109-131, 2017.
青山和佳・受田宏之・小林誉明編著『開発援助がつくる社会生活――現場からのプロジェクト診断』(第二版)大学教育出版,2017年
青山和佳 「火災と教会― ダバオ市の海サマ人の生活空間の変容と持続」『アジア文化研究所研究年報』東洋大学、281-288. 2017 年
青山和佳 「交易と現地社会の再編―スールー王国における民族間階層の構築と現代を生きる海サマ人」 『中国―社会と文化』 31: 60-78, 2016年
ナイラ・カビール著, 遠藤環・青山和佳・韓載香訳, 『選択する力―バングラデシュ人女性によるロンドンとダッカの労働市場における意思決定』, ハーベスト社, 2016年
Aoyama, Waka. “Creating Living Space against Social Exclusion: The Experience of the Sama-Bajau migrants in Davao City, Philippines.” Harvard-Yenching Institute Working Paper Series. January 2016.
青山和佳「未来を投企するフィリピン人―国内初の保健協同組合創設者の語りより」『東南アジア研究』50(1):39-71, 2012 年
Aoyama, Waka “Social Inequality among Sama-Bajau Migrants in Urban Settlements: A Case from Davao City”, Hakusan Jinruigaku (Hakusan Journal of Anthropology), 15: 1-38, 2012.
Aoyama, Waka, “Neighbors to the “Poor” Bajau: An Oral Story of a Woman of the Cebuano Speaking Group in Davao City, the Philippines”, Hakusan Jinruigaku (Hakusan Journal of Anthropology), 13 (3-33). 2010.
青山和佳「開発援助の現場における解釈コミュニティの出現―フィリピン・ダバオ市のバジャウ集落を事例に」『アジア研究』55 (4):55-75,2009 年
青山和佳『貧困の民族誌―フィリピン・ダバオ市のサマの生活』東京大学出版会,2006年
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2002年 博士(経済学)(東京大学)
「フィリピン、ダバオ市のサマ・バジャウ社会を対象とする、経済と倫理の相関を通した地域研究の人間学的発展への貢献」に対して
青山和佳氏は、これまで明確な方法論が確立されてこなかった地域研究に対して、独創的な思考と実践を通して、一つの可能性を提出した点で、地域研究の刷新と発展に大きな貢献をしてきた。それは、それぞれは異なる方向性を持つ開発経済学と民族誌学を人間学的に架橋するものだ。地域社会を経済を中心にマクロなシステムとして捉え、その経済的発展を志向する開発経済学の経済の論理と、ミクロな小集団や個人の集まりを起点にする民族誌学の文化の論理を、人々がともに交わりながら生の営みを集積する生活の論理で繋げていこうとする困難な試みを青山氏は見事に実践している。
青山氏が1997年以来、対象としてきたのは、フィリピン南西部のスールー諸島やサンボアンガ地域からフィリピン南部ミンダナオ島のダバオ市に移住してきたサマ・バジャウ(以下サマ)の人々である。フィリピンのスールー諸島やサンボアンガ地域の海民、漁民であったサマ人が、ダバオという都市的環境に移住する過程で、多くの変化を経験する。もともと「異端イスラーム」とされたり、シャーマニズムや祖霊信仰を育んできた人々は、都市社会の底辺に周縁化され差別を受けたり、真珠や貝殻の行商や物乞いなどの都市雑業を生業にしたり、キリスト教ペンテコステ派を受容したりしながら、貧困の中で自らの生活と社会を築き上げていく。青山氏は、サマ社会が経験したこの生活の持続と変容と向き合う地域研究を確立していく。
それは具体的には、経済と倫理あるいは信仰を同時に射程に入れる地域研究である。東南アジアは近年、経済的発展が著しいが、その一方で様々な領域で宗教復興も生起している。利潤と発展を追求する経済の論理と、人がいかに生きるべきか、人々といかに繋がっていくべきかを求める倫理の論理は乖離しつつある。経済発展と規範や価値観の維持、仕事と信仰が切断されていく中で、経済的に最も困窮状況(貧困)にある人々が、両者を両立させるものとして生活やウエルービーイングの論理を巧みに活用するスキルや思考を青山氏はすくい上げてきたのである。
そのための方法としては、彼らの語りと観察などの質的データを駆使する民族誌的手法と定量的データの統計的解析を用いた分析手法の接合を試みる。『貧困の民族誌: フィリピン・ダバオ市のサマの生活』においては、その手法を元にして、ダバオに移住したサマ人の多様な階層ごとに一家族を抽出し、貧困の具体的態様、キリスト教の受容、サマ・バジャウ意識の生成などを精緻に描写した。貧困の民族誌としても卓越した成果といえるだろう。
青山氏の地域研究の独創性の核心は、こうしたフィールドワークとその方法に基づいて、地域研究自体を刷新する可能性を内包する人間学的思考の提案にある。それが最も明確に表されているのが、フィールドにおける一人称の語りを多用しながら、調査地の死者や胎児などの「不在の他者」に宛てた手紙という形式で自分自身と人々の内面に迫ろうとした『An Intimate Journey: Finding Myself Amongst the Sama-Bajau』である。
青山氏の人間学的視点の基本は当事者性にある。調査する研究者は、常に調査される側の人々の語りに耳を傾け理解しようとするだけではなく、そこから自分自身の存在を批判的に内省し、そこにとどまらず新たな世界(社会や制度)を創出するために動き出し、常に状況に合わせて変化をし続ける。同じように調査される人々も調査者と出会い、対話を通じて、自らの存在を変化させ続ける。そうした双方向的な当事者性が青山氏の地域研究の基礎にある。しかしながらこうした姿勢は、これまでの学問研究の土台となってきた人間観とは異質なものだ。これまでの土台を成立させてきたのは、高潔性や完全性を特徴とする西欧近代に特有な「屹立する自己」であった。このインテグリティを至高とする人間観に対して、青山氏は、不完全性、相互依存性、相互変容性(転換性)を特徴とするインティマシー型の人間観を重視するのである。それは、調査する側とされる側が「地続き」であるという認識(地続き性)と、他者(調査対象者)との関わりに責任を持って生きていこうとする被傷性を主張する地域研究の創造へと繋がっていく試みとしてある。
以上のように青山氏の研究は、開発経済学と民族誌学に人間学的志向と方法を接合した独創的で画期的な視角によって、地域研究に新たな領域を開拓してきた。青山氏が将来的にも地域研究のさらなる発展に大きく貢献する研究者として期待できることから、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)