
- 現職 :
- 神戸女学院大学 文学部英文学科 准教授
- 最終学歴 :
- 総合研究大学院大学文化科学研究科博士後期課程修了(2007年)
- 主要職歴 :
-
2007年 京都大学地域研究統合情報センター 研究員
2008年 日本学術振興会特別研究員 PD
2010年 桃山学院大学国際教養学部 専任講師
2014年 桃山学院大学国際教養学部 准教授
2019年 神戸女学院大学文学部英文学科 准教授
現在に至る

2007年 京都大学地域研究統合情報センター 研究員
2008年 日本学術振興会特別研究員 PD
2010年 桃山学院大学国際教養学部 専任講師
2014年 桃山学院大学国際教養学部 准教授
2019年 神戸女学院大学文学部英文学科 准教授
現在に至る
Millennial Generation in Bangladesh: Their Life Strategies, Movement, and Identity Politics. 〔The University Press Limited, edit, 2020〕
人類学者がフィールドに残すもの-バングラデシュ・ゴヒラ村の人々の記憶に生きる原忠彦教授.〔『文化人類学』 85(2), 2020〕〕
『子どもへの視角―新しい子ども社会研究』〔新曜社,元森絵里子・高橋靖幸との共編著, 2020〕
バングラデシュ独立戦争の映画表象.〔『桃山学院大学総合研究所紀要』44(2):15-30, 2019〕
『メディアの内と外を読み解く―大学におけるメディア教育実践』〔せりか書房,木島由晶との共編著, 2018〕
Seeking New Life in Bangladesh: Do rural migrating youth ‘urbanize’ after moving to the city? 〔Nrvijnana Patrika (Journal of Anthropology) 23:11-26, 2018〕
バングラデシュ海外出稼ぎ者の夢と葛藤―出稼ぎ先ギリシャと出身農村社会の狭間で.〔『桃山学院大学総合研究所紀要』43(1):55-71, 2017〕
グローバルとローカルの狭間で錯綜する『子ども』のイメージと実態.〔『子ども社会研究』23:41-52, 2017〕
『「学校化」に向かう南アジア―教育と社会変容』〔昭和堂, 押川文子との共編著, 2016〕
映像作品『教育第一世代―子ども期から若者期へ』(英語版:The First Educated Generation)〔52分DV/HDV, 2016〕
The First Educated Generation as ‘Social Transformers’ in Rural Bangladesh: An Overview from their Childhood to Adolescence in a Village of Jamalpur. 〔Nrivijnana Patrika (Journal of Anthropology) 20:33-51, 2015〕
『「子ども域」の人類学―バングラデシュ農村社会の子どもたち』〔昭和堂, 2014〕
経済成長下の若者の都市移動―「わたし語り」の人類学の試み.〔『桃山学院大学総合研究所紀要』39(3):91-108, 2014〕
ヴェールを脱いでみたけれど―バングラデシュ開発と経済発展の中の女性たち. 〔福原裕二・吉村慎太郎編『現代アジアの女性たち―グローバル化社会を生きる』新水社, pp.195-214, 2014年〕
映像作品『シムルの夢と葛藤』(英語版:A Life Suspended)〔37分HDV, 2013〕
『フィールドワークと映像実践―研究のためのビデオ撮影入門』〔ハーベスト社, 秋谷直矩との共著, 2013〕
Story of the Ghosts Living in Water(水に棲むおばけの話―環境教育のための教材紙芝居).〔Rubi Enterprise, edit, 2012〕
映像作品『バングラデシュ農村社会における割礼の変容』(英語版:Circumcision in Transition: in A Bangladeshi Village)〔35分DV, 2005〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2007年 文学博士(総合研究大学院大学)
「バングラデシュにおける次世代から見た社会変動の研究」に対して
南出和余氏は、バングラデシュにおける現代の社会変動を、子ども期から若者期を生きる個人に対する継続した追跡調査から捉え、かつその調査に映像を活用してきた。子ども社会への参与観察やその後の追跡による実況調査、それらを長期にわたって映像で記録し続けてきた実証研究には、他に例を見ない高い独創性が見受けられる。
同氏の研究の原点は、大学院生時代に取り組んだバングラデシュ農村部における「子ども」を対象にした人類学研究にある。村の子どもたちに密着した調査を通じて、規範が共有されるべき大人像が明確な社会では、子どもたちは厳しく監督されて成長するというよりもむしろ放任され、子ども同士の遊びや気儘に過ごす時間を通じて自らを社会化していくことを発見し、それを「子ども域」と概念化して考察した。この博士号請求論文は、その独創性が評価され、総合研究大学院大学の優秀博士論文に授与される長倉研究奨励賞を受賞した。その後、この研究を基に出版された『「子ども域」の人類学―バングラデシュ農村社会の子どもたち』(2014年、昭和堂)には、日本南アジア学会および日本子ども社会学会の両学会から学会賞が与えられ、地域研究的にも地域を超えたテーマ研究としても高く評価された。
同氏が調査を開始した2000年代初頭のバングラデシュ北部農村部は、都市部や海外への労働移動が増加し、農村部にも初等教育が急速に普及するなど、流動性の高い社会への転換点にあった。子どもたちの中には、学歴を求めて私立学校に通う子どももあれば、10代の早い時期からダッカの縫製工場、さらにヨーロッパなどに出稼ぎに出る若者も出現しており、こうした多様化する子どもたちの未来を考える上でも、子どもたちを当事者とする自律的な領域の発見は重要である。
南出氏はその後、バングラデシュの経済・政治にも関心を深め、青年期を迎えた子どもたちの成長を通じて、地域社会の変容を彼らの内在的視点から考察する研究を開拓している。また、バングラデシュ農村の一事例に止めることなく、共同研究へと発展させ、南アジアを対象とする他の国内研究者と共に「南アジアにおける教育と社会変容」の文脈で議論し、『「学校化」する南アジア』(押川文子共編著、2016年、昭和堂)として発表している。さらに近年は、国際的なバングラデシュ研究ネットワークへの参与を積極的に進め、現地バングラデシュの人類学者ら数名と国際共同研究を組織し、現在の若者世代がバングラデシュの急激な社会変動を象徴する存在であると位置づけ、より多角的に議論した編著”Millennial Generation in Bangladesh”が現地出版社からまもなく出版される予定である。
また、個人を対象とする研究方法を模索するなかで、映像記録の積極的な活用と作品化を実践してきたことは、南出氏の研究における重要な特色の一つである。同氏の映像作品は、制作者の作家性を強調する作品制作というよりも、子ども期という短い時間の記録を残し、長期にわたって調査する側とされる側のコミュニケーションを図るためのツール、すなわち映像人類学としての映像記録である。例えば男児割礼を題材に、当事者である男児自身、家族、村の人々の感想や表情を丹念にとらえた作品『割礼の変容』は国際的にも評価され、エストニアで開催された第20回Parnu International Documentary and Anthropology Film Festival(2006年)にて最優秀科学ドキュメンタリー賞を受賞した。その後の作品でも、バングラデシュの村からギリシャに出稼ぎに行った青年と村に残された家族を繋ぐ映像(『シムルの夢と葛藤』2013年)や、数名の子ども期から若者期の12年間を継続的に反復記録した映像(『教育第一世代』2016年)など、常に、そこに映る当事者たちが映像を鏡として自己の姿を制作者と共に確認する方法が取られており、それぞれ国際映画祭や国際学会で上映されている。
現在、南出氏は、学部教育に重点をおく私立大学で教育活動に従事しており、自らのバングラデシュとの研究を通じた関わりや映像制作を、高等教育の現場において実践・体系化することに、意欲的に取り組んでいる。過去に類を見ない勢いでグローバル化がさまざまな形で人類社会に直接的な影響をもたらす現在、人類学・地域研究教育の社会的需要はこれまで以上に増している。研究を教育に生かす方法を模索し、それを教育実践研究として提示する南出氏の姿勢は、地域研究の発展においても重要である。
以上の理由から、南出和余氏には今後さらなる活躍が大いに期待され、選考委員会は大同生命地域研究奨励賞の授与を決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)