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塩谷 哲史 氏
略 歴

塩谷 哲史

現職 :
筑波大学 人文社会系 准教授
最終学歴 :

東京大学大学院 人文社会系研究科 アジア文化研究専攻単位取得退学(2010年)

主要職歴 :

2008年 日本学術振興会特別研究員(DC2)

2009年 筑波大学人文社会科学等支援室

2011年 筑波大学人文社会系助教

2020年 筑波大学人文社会系准教授

     現在に至る
主な著書・論文
  1. 塩谷哲史「19世紀中葉オレンブルグにおける交易について」今村薫編『牧畜社会の生態』名古屋学院大学総合研究所、2019年、17-27頁

  2. 塩谷哲史『転流―アム川をめぐる中央アジアとロシアの五〇〇年史―』風響社、2019年
  3. 塩谷哲史「19世紀コングラト朝ヒヴァ・ハン国の君主像」野田仁、小松久男編『近代中央ユーラシアの眺望』山川出版社、2019年、118-139頁
  4. Shioya, Akifumi. “The Treaty of Ghulja Reconsidered: Imperial Russian Diplomacy Toward Qing China in 1851,” Journal of Eurasian Studies, 10-2, 2019, pp. 147-158
  5. 塩谷哲史「1842年ガージャール朝使節団のヒヴァ派遣―シーア派捕虜解放問題と英露両国の関与について―」『内陸アジア史研究』33、2018年、51-73頁
  6. 塩谷哲史「中央アジア乾燥地域の都市と水資源―ヒヴァ―」『歴史と地理 地理の研究』196、2017年、66-73頁
  7. 塩谷哲史「伊犁通商条約(1851年)の締結過程から見たロシア帝国の対清外交」『内陸アジア史研究』32、2017年、23-46頁
  8. 塩谷哲史「ニコライ・コンスタンチノヴィチ大公のアムダリヤ転流計画―英露関係とトルクメン問題の文脈から―」『内陸アジア史研究』31、2016年、73-92頁
  9. Onuma, Takahiro, Yayoi Kawahara and Akifumi Shioya. “An Encounter between the Qing Dynasty and Khoqand in 1759–1760: Central Asia in the Mid-Eighteenth Century,” Frontiers of History in China, 9-3, 2014, pp. 384-408
  10. Shioya, Akifumi. “Povorot and the Khanate of Khiva: a new canal and the birth of ethnic conflict in the Khorazm oasis, 1870s-1890s,” Central Asian Survey, 33-2, 2014, pp. 232-245
  11. 塩谷哲史「ヒヴァ・ハン国と企業家―イチャン・カラ博物館の一勅令を手がかりに―」堀川徹、大江泰一郎、磯貝健一編『シャリーアとロシア帝国―近代中央ユーラシアの法と社会―』臨川書店、2014年、59-77頁
  12. 塩谷哲史『中央アジア灌漑史序説―ラウザーン運河とヒヴァ・ハン国の興亡―』風響社、2014年
  13. Shioya, Akifumi. “Who Should Manage the Water of the Amu-Darya?: Controversy over Irrigation Concessions between Russia and Khiva, 1913-1914,” Paolo Sartori ed., Explorations in the Social History of Modern Central Asia (19th - Early 20th Century), Brill, 2013, pp. 111-136
  14. 塩谷哲史「ハンと企業家―ラウザーン荘の成立と終焉1913-1915―」『東洋史研究』71-3、2012年、58-84頁
  15. 塩谷哲史「帝政末期アムダリヤ流域の灌漑利権問題に関する一考察―ラウザーン荘設立をめぐるロシア=ヒヴァ・ハン国関係の変遷、1913-1915年―」『メトロポリタン史学』8、2012年、107-129頁

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :2012年2月 博士(文学)(東京大学)

業績紹介

中央アジアにおける水利と社会に関する歴史学的地域研究」に対して

 

 塩谷哲史氏は中央アジアにおける水利と社会に関する歴史学的地域研究において顕著な業績をあげてきた、すぐれた研究者である。同氏は、中央アジア、とりわけウズベキスタンとトルクメニスタンの境界付近を通ってアラル海に流れ込むアム川流域の灌漑について、ロシア語、トルコ語、テュルク諸語の史資料を駆使しながら歴史学的な観点から研究してきた。

 その研究成果は、まず博士論文をもとに単著として出版した著書『中央アジア灌漑史序説――ラウザーン運河とヒヴァ・ハン国の興亡』(風響社、2014年)にまとめられた。また、一般向けのブックレット『転流――アム川をめぐる中央アジアとロシアの五〇〇年史 』(ブックレット《アジアを学ぼう》52) 風響社、2019年)としても刊行し、研究成果の社会への還元に関しても大きな貢献をしている。

 さらに、共著として野田仁・小松久男編『近代中央ユーラシアの眺望』(山川出版社、2019年)、帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための60章』 (エリア・スタディーズ164、明石書店、2018年)、堀川徹・磯貝健一・大江泰一郎共編『シャリーアとロシア帝国-近代中央ユーラシアの法と社会』( 臨川書店、2014年)、Paolo Sartori、ed. Explorations in the Social History of Modern Central Asia, 19th-Early 20th Century. (Brill's Inner Asian Library, Leiden: Brill, 2013)などに論考を寄稿している。

 塩谷氏は、単独論文を多数執筆しているが、主要なものは上記の単著・共著を含む諸著作に所収されている。ここでは単著を中心に同氏の研究業績を紹介する。

 『中央アジア灌漑史序説―ラウザーン運河とヒヴァ・ハン国の興亡』(風響社、2014年)は、松下アジアスカラシップ(現・松下幸之助国際スカラシップ)によるウズベキスタン共和国への留学中の研究成果に基づいて執筆され、東京大学大学院人文社会系研究科に提出された博士論文を出版したものである。同書は、16~20世紀初頭の中央アジアのホラズム・オアシスにおける灌漑史の展開と政権の興亡に焦点を当てそれらと自然環境の変化とのかかわりを視野に入れつつ、実証史学の立場から中央アジアの水資源問題を検討している。具体的には、ウズベキスタン共和国ホラズム州とトルクメニスタン共和国ダシュオグズ州の国境にあったラウザーン運河周辺で、19~20世紀にかけての120年あまりの間に起きた諸事件とその背景、歴史的重要性を、一次資料を読み解きながら、従来の中央アジア近現代史ではあまり注目されてこなかった水利史、地方政権史、企業史の視点から明らかにしたものである。その過程で、17世紀以降の中央アジア西部での移動を活発化させたトルクメン遊牧民の動向、20世紀初頭に短期間集中的に見られたロシア人企業家による中央アジアにおける大規模灌漑事業への進出計画と並んで、アム川のカスピ海への転流計画にも言及されている。まさに、自然環境と地域社会のむすびつきをもとに、新たな歴史像を描いたものである。

 『転流――アム川をめぐる中央アジアとロシアの五〇〇年史 』(風響社、2019年)は、ロシアが500年をかけて、中央アジアの政治・経済・文化など多面にわたる関係を構築した過程で追及してきた、アム川をカスピ海に転流させる課題を明らかにしたものである。アム川転流計画がアム川流域の大規模灌漑事業にどのような影響を与えてきたのか、干上がって半世紀で約5分の1に縮小した現代のアラル海問題とどういう関係があるのかという視点から、その歴史的展開を500年のタイムスパンの中で具体的に描いたものである。

 以上、塩谷氏の中央アジア灌漑史に関する研究業績に関して、特に歴史学的な観点からの地域研究への取り組みにおける実績を主に取り上げたが、その他、学会や研究プロジェクトの組織・運営といった学術活動の面でも、中央アジア地域研究の発展への貢献を見せている。日本中央アジア学会理事、またヨーロッパ中央アジア学会(ESCAS)理事(現・副会長)として第16回大会(2019年6月、エクセター大学)を成功に導いた。さらに、筑波大学においては旧ソ連諸国出身の留学生に対して英語で研究指導・教育を行い、2014年度には筑波大学若手教員奨励賞を受賞した。

 以上のような塩谷哲史氏の研究実績や学術活動の実行力などを高く評価し、さらに中央アジア地域を対象とした地域研究の新たな展開を期待して、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)