「アンコール・ワット『ISO14001』(環境マネジメントシステム)認証取得のための環境保全活動」に対して
カンボジアは1993年に和平を達成した。しかし、2000年代には年間約300万人の観光客が押し寄せ、ゴミ、排気ガス、水質汚染など、深刻な環境問題に直面した。
ラオ氏はこの惨状を解決するため、カンボジア政府に対して、環境保全のため「ISO14001(環境マネジメントシステム)」の認証取得を進言し、その『マニュアル教本』をカンボジア語に全訳した。そのうえで、その『マニュアル教本』を売店、集落、そして学校などに配布し、ゴミ・ゼロ活動を3年にわたり実施した。
その結果、2006年、厳しい審査を経てユネスコ世界遺産の中でアンコール遺跡が初めて「ISO14001認証」を取得した。
ラオ氏はアンコール遺跡から湖岸沿いに南へ約100キロのストウン市に生まれた。地元の学校を経て首都プノンペンのリセ・シソワットに入学し、卒業後は最難関の日本国政府奨学金留学生として東京工業大学に留学した。同大学で工学博士号を取得した後、通産省(当時)所管の財団法人「日本品質保証機構(JQA)」に入社した。
当時、カンボジアにおいてはポル・ポト政権が誕生したため、帰国を断念し、日本国籍を取得した。しかし、ラオ氏は親戚や家族が残るカンボジアの難民救済に尽力した。
ラオ氏は1991年、上智大学アンコール遺跡国際調査団の通訳としてカンボジアに一時帰国したときに、住民の飲み水の水質調査、水環境、トンレサップ湖などの調査をおこなった。その調査結果の報告は、1992年3月に「アンコール地域の陸水環境について―水質の予備調査」『カンボジアの文化復興』Vol.6、pp.109-128、(上智大学アジア文化研究所)、1993年11月に「アンコールの環境問題―水環境を中心に―」『第2回アンコール遺跡国際調査団報告』(上智大学アンコール遺跡国際調査団)、1994年11月には「プノンペン市内におけるトンレサップ川の堆積物」『カンボジアの文化復興』Vol.10、pp.82-93、(上智大学アジア文化研究所)、1995年1月「アンコール地域の文化遺産と自然環境」『アンコール遺跡調査報告会』(上智大学アジア文化研究所)、1995年5月「アンコール地域の水環境と今後の課題」『カンボジアの文化復興』Vol.11 pp.85-98、(上智大学アジア文化研究所)、1996年1月「アンコール地域の水環境―継続調査―」『カンボジアの文化復興』Vol.12 pp.91-98、(上智大学アジア文化研究所)、1997年7月には「トンレサップ湖とカンボジアの人々―大いなる湖の恩恵:人間・自然・文化―」『カンボジアの文化復興』Vol.14、pp.83-107、(上智大学アジア文化研究所)、あるいは2010年には“International Standard ISO14001:2004 Environmental Management systems –Requirements with guidance for use”(クメール語訳書)、(79p)、(財)日本品質保証機構、を刊行するなど、一連の研究業績にまとめられている。
また、2001年3月には「アンコール遺跡地域での子ども環境教育活動」『第17回アンコール遺跡国際調査団報告』(上智大学アジア人材養成研究センター)、2002年2月には「アンコール遺跡と環境保全」『文化遺産の保存と環境』、講座「文明と環境」第12巻、朝倉書店、pp.121-138、そして「アンコール都城を取り囲む自然環境」『季刊・文化遺産』Vol.18、pp.68-73(並河萬里写真財団)、2012年3月など遺跡と自然環境といったテーマでも論考を発表し、2004年10月には「アンコール旧都城を取り囲む文化環境―文化・自然・人間―」『第7回アンコール遺跡国際調査団報告』(上智大学アジア文化研究所)、2001年4月には『開発途上国環境保全計画策定支援調査報告―カンボディア王国―』、環境省委託、といった報告書とともに、さらに、「アンコール旧都城を取り囲む文化環境」、『アンコール遺跡と社会文化発展』、pp.99-118、連合出版、2001年7月、「自然環境から見たアンコール遺跡」、『アンコール遺跡の建築学』、pp.93-112連合出版、2005年3月、「世界遺産への挑戦-アンコ-ル地域環境保全への取り組み」、『グローバル/ローカル 文化遺産』、pp.118-132、上智大学出版、共著などといった、アンコール遺跡をめぐる環境保全に係わる諸問題についても論考を発表している。
なお、ラオ氏は「日本品質保証機構(JQA)」を定年退職後、小・中学校での環境教育を普及させるため、住居を祖国へ移して現在に至るまで奉仕活動を継続している。
以上のように、ラオ氏は、ユネスコ世界遺産の中で、初めてアンコール遺跡が「ISO14001認証」を取得することに貢献し、また、カンボジアにおいて、小・中学校での環境教育を普及させるため、現在に至るまで奉仕活動を継続している。よって、選考委員会は一致して大同生命地域研究特別賞を授与することを決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)