「北極圏における環境調査ならびに共生社会の探究」に対して
山崎哲秀氏は、北極圏における探検を通して地球環境問題の解決に取り組む活動家である。
植村直己に憧れて高校卒業後から探検を始めた山崎氏は、1988年にアマゾン河イカダ下り単独行を敢行した。1989年からは北極圏、おもにグリーンランドへの遠征を繰り返し、グリーンランド北西部で現地の人びとから犬橇の操作技術や狩猟技術を学び、極地調査のスペシャリストとなった。
山崎氏は、遠征活動の過程で科学者たちと遭遇して以来、地球環境の急速な変化とりわけ温暖化や人為汚染などの課題が北極圏に顕著に現れることを目の当たりにし、極地観測という科学的な営みに積極的に関与することとなる。
例えば、1995年からは北極圏での様々な学術調査に参加した。1998年と2000年には北海道大学低温科学研究所の的場澄人氏と共同で、犬橇によるグリーンランド北部、内陸域観測調査を実施した。2003年には総合地球環境学研究所の通称オアシスプロジェクトに参加し、ロシアのベルーハ氷河からアイスコアを掘り出すドリラーとして貢献した。また2004年から2006年にかけては、第46次日本南極地域観測隊に越冬隊員として参加した。こうした学術調査の成果は多くの論文として発表されており、著者名として山崎氏の名も併記されている。
さらに、2006年からは10年間にわたる北極圏環境調査「アバンナット北極プロジェクト」を独自で計画し、実行した。
2017年には「アバンナット北極プロジェクト」を一般社団法人とし、民間支援による極地観測を継続するとともに、世界最北の先住民族の村であるグリーンランドの「シオラパルク」を廃村の危機から救うための活動にも従事している。具体的には、海氷や雪氷などの観測データを収集する一方で、現地のイヌイットの人びとから自然や生活環境の変化を聞き取り調査している。いわば、文理融合プロジェクトのワンオペである。
さらにまた山崎氏は、北極圏での経験を『犬ぞり探検家が見た!ふしぎな北極のせかい』などの絵本に著し、若い世代への啓蒙にも努めている。
世に冒険家と称される人々は少なくないが、彼らが世界各地で自身の力試しをもっぱら行うのに対して、山崎氏は地域を極地とりわけ北極圏に限った遠征によって、地球環境全体の課題に貢献するための科学的計測と、現地住民コミュニティの持続可能性のための活動を長期にわたって継続的に実施している。山崎氏の自主独立的かつ持続的な活動に対して敬意を表しつつ、大同生命地域研究特別賞にふさわしいと高く評価したい。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)