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山田 篤美 氏 
略 歴

畑中 幸子

現職 :
歴史研究者(真珠史, ギアナ高地史)
最終学歴 :

京都大学経済学部卒業

米国オハイオ州立大学大学院ジャーナリズム研究科

修士課程修了(1991年)
主要職歴 :
        

著述者、歴史研究者

現在に至る

主な著書・論文
  1. 山田篤美『真珠の世界史――富と野望の五千年』〔中公新書, 2013〕
  2. 山田篤美『黄金郷(エルドラド)伝説――スペインとイギリスの探険帝国主義』〔中公新書, 2008〕

  3. 山田篤美『ムガル美術の旅』〔朝日新聞社, 1998〕
  4. 山田篤美「天然真珠の大きさと出現率についての考察――アコヤ真珠の場合」〔『宝石学会誌』35(1-4), 2021〕(2021年7月刊行予定)

  5. 山田篤美『真珠と16世紀ヨーロッパの対外拡張――真珠のコモディティ・チェーンからの考察』博士論文, 2021〕
  6. 山田篤美「探険が侵略に変わる時――イギリスが300年狙ったギアナ高地」〔『ラテンアメリカ時報』1408, 2014〕

  7. 山田篤美「新世界の真珠の歴史的考察――オリエントに代わる真珠の産地の発見と都市形成のメカニズム」〔『第3回全球都市全史研究会報告書』2010〕
  8. Atsumi Yamada, “The Eschatological Symbolism of the Aḥmad Yasawi Shrine (in English and Russian)” 〔Vestnik, (Almaty, Kazakhstan) 2 (6), 2002〕
  9. 山田篤美「タージ・マハル・コンプレクスのプランについての新解釈及びアフマド・ヤサヴィー廟における終末的シンボリズム」『アジア・アフリカ言語文化研究』63,2002〕
  10. 山田篤美「令和時代の真珠と万葉集(1~4)」『山梨研磨宝飾新聞』2019年9月15日、10月15日、11月15日、12月15日

  11. 展覧会企画及び監修「History of Pearls――「真珠」価値の変遷」日本橋三越本店,2016年6月15日~6月20日; 仙台三越, 2017年11月1日~11月7日; 名古屋三越,2019年2月13日~26日, 銀座三越, 2019年12月11日~18日など各地で開催
  12. テレビ出演「知られざる真珠王国・日本」『視点・論点』NHK総合及びEテレ, 2014年1月7日

以上のほか、現在に至るまで著書・論文多数

備考 :2021年 文学博士(大阪大学)

業績紹介

「美と富を求める人類史としての地域研究の探求」に対して

 

 山田篤美氏は、美と富を求める人類の欲望が世界をつないできたことを切り口とする、新しい地域研究を広く社会に提供している著述家である。

 同氏の著述家としてのキャリアは、インドに花開いたイスラーム芸術である「ムガル美術」の通史を著すことから始まった。美術史としての地域研究であると言ってよいであろう。16世紀初期から300年以上にわたってインドを支配したイスラーム征服王朝ムガル帝国の建築、庭園、細密画を紹介しながら、それらに通底するシンボリズムについて長期的な変化を解説した本書は、新しい分野の開拓として地域研究の専門家から評価された。とりわけ、芸術に表された世界観や事物から国際関係を読み解く物語として興味深い。

 同氏は米国に留学して調査報道のための探索手法を学んだのち、家族の転勤に伴ってベネズエラに移り住んだことを契機として、ギアナ高地に魅せられた人々の歴史に関する読み解き作業に着手した。

 具体的には、地図や新聞記事など多様な資料を用いて、大航海時代が始まる15世紀後半から20世紀前半までのおよそ500年にわたって、スペイン人とイギリス人による探険を扱ったベネズエラの地域研究である。スペインとイギリスの競合に注目し、「探険帝国主義」と名付け、地域開発をする側とされる側の関係性を『黄金郷(エルドラド)伝説』という書籍にまとめた。

 同書においては、19世紀のベネズエラとイギリスの国境争いが、サー・ウォルター・ローリーによるギアナ探険を嚆矢とする300年の歴史的経緯があることを示すなど、植民地主義の禍根が明らかにされている。

 そして、山田氏の真骨頂は、黄金や領土に対する人びとの熱狂を分析し、ダニエル・デフォーのいわゆる『ロビンソン・クルーソー』やコナン・ドイルのSF小説『失われた世界』がいわば広告となって、どのように人々に読まれて南米への興味を駆り立てていたかを明らかにしている点であろう。それはまた同時に、現地に関する情報がどのように作家の想像力を刺激したかを明らかにすることでもある。すなわち、文学の受容や創造にまで考察領域を広げ、地域情報と人々の欲望や行動との相互作用という観点に注目することによって新しい地域研究の可能性を示したのである。 

 さらに、黄金郷としてのギアナ高地に関する調査過程で、同氏はカリブ海とくにベネズエラ沖が真珠の採取地域として開発されたことに触発され、続いて『真珠の世界史』を上梓することになる。同書は、宝飾を求めた「探険帝国主義」が、ベネズエラ、ペルシア湾、インドなど世界各地における地域開発をもたらしていくとともに、各地域の連関性を明らかにした力作である。

 これまで宝飾品のカタログとして総合的な記載はあったものの、真珠とその海域支配をめぐる人類5000年の歴史と日本の養殖真珠史100年の歴史を扱った通史は同書が初めてである。

 16世紀から19世紀にかけて、真珠に憧れていたヨーロッパ人は主要な真珠の産地に進出し、その海域や真珠採りの人々を支配するようになった。しかし、日本の養殖真珠が登場すると、ヨーロッパの真珠ビジネスは瓦解し、代わって「真珠王国」日本が誕生する。つまり、同書は、日本の真珠養殖についても世界各地の地域研究と並列的に扱うことによって、国内産業史の枠を越え、隷属的な潜水夫労働を終焉させるグローバルヒストリーとして位置づけたのである。

 このように各地で同時進行する課題を設定すると、扱うべき資料は多様化し、拡散する一方である。その限りない拡散にひるむことなく徹底的に読みこなす勇気は、アカデミズムに属してこなかった同氏の強みであると言えよう。在野であることを生かして、いずれの学問領域にも縛られることなく、より自由に、より多様な資料を活用し、地域研究の可能性を提示してきた。著作ごとに扱う地域が異なるように見えても、美や富に注目して経済的動機から国際関係を読み解くという視座が最初の著作から一貫して確認される点はきわめて興味深い。

 以上のように、山田篤美氏は、美や富への欲望によって引き起こされる地域開発とその相互連関に着目した、新しい地域研究を広く社会に提供しており、大同生命地域研究特別賞にふさわしいものと高く評価される。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)