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加納 啓良 氏
略 歴

加納 啓良

現職 :
東京大学 名誉教授
最終学歴 :
東京大学経済学部卒(1970年)
主要職歴 :

1971年 アジア経済研究所(調査研究部)

1980年 東京大学(東洋文化研究所) 助教授

1991年 東京大学(東洋文化研究所) 教授

2012年 東京大学(東洋文化研究所) 名誉教授

       現在に至る

主な著書・論文
  1. 『インドネシア──21世紀の経済と農業・農村』(御茶の水書房、2021年)

  2. 『インドネシアの基礎知識』(めこん、2017年)

  3. 『東大講義 東南アジア近現代史』(めこん、2012年)

  4.  Indonesian Exports, Peasant Agriculture and the World Economy 1850-2000:Economic Structures in a Southeast Asian State, (Singapore, NUS Press,2008.)

  5. 『現代インドネシア経済史論』(東京大学出版会、2004年)

  6. 『インドネシアを齧る』(めこん、2003年)

  7. 『中部ジャワ農村の経済変容──チョマル郡の85年』(編著、東京大学出版会、1994年)

  8. 『インドネシア農村経済論』(勁草書房、1988年)

  9. 『サワハン──「開発」体制下の中部ジャワ農村』(アジア経済研究所、1981年)

  10. 『パグララン──東部ジャワ農村の富と貧困』(アジア経済研究所、1979年)

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :1990年 経済学博士(東京大学)

業績紹介

「インドネシアならびに東南アジアに関する社会経済史研究」に対して

 

 

 

 加納啓良氏は、1970年代後半に中・東部ジャワの2つの村落で行った農村経済調査の成果を『パグララン-東部ジャワ農村の富と貧困』(アジア経済研究所、1979年)、『サワハン-「開発」体制下の中部ジャワ農村』(アジア経済研究所、1981年)の2つの学術書にまとめて学界の注目を集めたうえ、前者はインドネシア語にも翻訳されて国際的にも高く評価された。

 

  さらに、やはり1970年代後半から県単位の地方レベルでも整備されるようになったジャワの食料農業生産統計と、1920年代に当時のオランダ植民地政府が作成した同種の地方別農業統計を『インドネシア農村経済論』(勁草書房、1988年)の著作で比較分析し、第2次世界大戦と戦後のインドネシア独立をはさむ半世紀間の変化を明らかにした。

 

 次いで1990年代初めには、20世紀初頭にオランダ人研究者が残した中部ジャワ北海岸の一地方の村々における農家経済悉皆調査の膨大な記録を活用し、同じ地域の農村経済のその後の変化を解明する国際共同研究を、日本、インドネシア、オランダの三国の研究者たちのあいだで組織した。その成果は編著『中部ジャワ農村の経済変容-チョマル郡の85年』(東京大学東洋文化研究所・東京大学出版会、1994年刊)や、それに続く英語、インドネシア語の編著で公表されている。

 

 ジャワを中心とする小農民による食料生産農業の社会経済史的研究の一方で、スマトラ、カリマンタンなどジャワ以外の地域を中心とするプランテーション農業や鉱業など輸出向け一次産品生産の歴史的展開についても、加納氏は研究を続けてきた。とくに21世紀に入ってからの変化として、アブラヤシを原料とするパーム油産業と主に発電原料となる石炭生産の急速な発展を、その主な担い手である企業群の解明を通じて明らかにした。また、上記チョマル地方における農村経済のその後の変化を追跡した2010年代の国際共同調査にも加わり、農業外の就業と所得の著しい拡大によって生じたジャワ農村経済の構造変容をも明らかにした。これらの研究成果は、『インドネシア-21世紀の経済と農業・農村』(お茶の水書房、2021年)にまとめられている。

 

 加納氏が1970年代末に著した前掲書『パグララン-東部ジャワ農村の富と貧困』は、その後のアジア・アフリカにおける土地所有制度を軸とした農村社会経済研究のモデルともなり、多数の研究者によるモノグラフの執筆を誘発した。そのアジア・アフリカ農村社会研究に対する貢献はきわめて大きかった。

 

 以上のような学術研究に加えて、加納氏はインドネシアのみならず、東南アジア全体に関する一般読者向けの著作を数多く上梓している。その具体例を出版年順に挙げれば次のとおりである。

 

 スハルト大統領退陣後のインドネシアの政治経済状況を、民衆のうねりを目撃した著者独自の視点から描いた『インドネシア繚乱』(文春新書163、2001年)。雑誌に掲載したインドネシアに関する一般向き読み物をまとめた『インドネシアを齧る-知識の幅をひろげる試み』(めこん、2003年)。ASEAN検定シリーズの公式テキストとして編纂された『インドネシア検定』(めこん、2010年)。講義ノートをまとめた『東大講義 東南アジア近現代史』(めこん、2012年)。東南アジア諸国の世界市場向け各種一次産品生産の発展とそれに伴う環境破壊の問題などを解説した『図説「資源大国」東南アジア-世界経済を「支える「光と影」の歴史」(洋泉社、歴史新書y、2014年)。インドネシアの地理、歴史、政治、経済、社会構造、対外関係などを分かりやすく説明した『インドネシアの基礎知識』(めこん、2017年)。

 

 以上の理由から、加納啓良氏を大同生命地域研究賞にふさわしい功績を挙げた研究者として顕彰する。

 

  (大同生命地域研究賞 選考委員会)