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山本 紀夫 氏
略 歴

山本 紀夫

現職 :
国立民族学博物館 名誉教授
最終学歴 :
京都大学農学部博士課程修了(1976年)
主要職歴 :

1978年 国立民族学博物館 助手

1983年 国立民族学博物館 助教授

1984年 ペルーリマ市国際ポテトセンター  (CIP)社会科学部客員研究員

1992年 国立民族学博物館  教授・総合研究大学院  併任教授

2007年 国立民族学博物館  教授・総合研究大学院  併任教授 定年退職

       現在に至る

主な著書・論文
  1. 『高地文明の発見』(中公新書、単著、2021).

  2. 『ものがつなぐ世界史』(ミネルヴァ書房、共著、2021)

  3. 『自前の思想』(京都大学学術出版会、共著、2020)

  4. ジャガイモのきた道【韓国語版】』(AK Communications, Soul3、単著、2019)

  5. 『熱帯高地の世界』(ナカニシヤ出版、編著、2019)

  6. 『コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史』(角川選書、単著、2017)

  7. 『トウガラシの世界史』(中公新書、単著、2016)

  8. 『中央アンデス農耕文化論』(国立民族学博物館(東京大学学位申請論文)、単著、2014)

  9. 『梅棹忠夫「知の探検家」の思想と生涯』(中公新書、単著、2012)

  10. 『束椒世界史』(馬可羅文化【台北市】【中国語版】、2011)

  11. 『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎、監訳、2010)
  12. 『ドメスティケーション-その民族生物学的研究』(国立民族学博物館、編著、2009)

  13. 『酒づくりの民族誌』(八坂書房、編著、2008)

  14. 『ジャガイモのきた道』(岩波新書、単著、2008)

  15. 『天空の帝国インカ』(PHP新書、単著、2007)

  16. 『山的世界』(台湾商務印書館、梅棹忠夫との共編著【中国語版】、2007)

  17. 世界の食文化 中南米』(農文恊、編著、2006)
  18. 『雲の上で暮らす』(ナカニシヤ出版、単著、2004)
  19. 『ジャガイモとインカ帝国』(東京大学出版会、単著、2004)
  20. 『アンデス高地』(京都大学学術出版協会、編著、2000)
  21. 『山の世界―自然・文化・暮らし』(岩波書店、梅棹忠夫との共編著、1992~1993)
  22. 『ヒマラヤの環境誌』(八坂書房、稲村哲也との共編著、1992)

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :1978年 農学博士(京都大学)、2014年 学術博士(東京大学)

業績紹介

「アンデスを中心とする熱帯高地の環境人類学的研究」に対して

 

 

 山本紀夫氏は、1968年以来50年以上にわたって南米のアンデス地域を中心に、植物学・民族学のフィールドワークを続けている民族植物学者である。

 アンデス文明の発展にはトウモロコシと共にジャガイモの栽培化が重要であったことを、フィールドで得た多様なデータに基づいて示し、アンデス研究に重要な貢献を行った。その分析手法は、植物学・民族学・文化人類学などを融合した民族植物学という新たな学際的領域であり、アンデス文明を解明する際には特に有用な手法であると高く評価された。これらの「アンデス高地の学際的地域研究」に対して2004年度大同生命地域研究奨励賞を受賞している。その後、山本氏はその研究を更に発展させ、「高地文明」という新たな生態史観を提唱することで、より広い視野から世界の熱帯高地で発生した文明の比較研究を展開してきた。

 山本氏は、アンデス文明の成立、発展の中核となった地域が、熱帯に位置する山岳地帯であったことに着目し、従来のアンデス研究に欠けていた生態学的な視点から、アンデス文明の成立や発展に関してさらに研究を進めると共に、その対象地域を世界の高地地域(標高2000~4000メートル)へと広げた。熱帯高地は、これまで辺境とみなされ、ほとんど注目されなかった地域であるが、古くから大きな人口を擁して、高度な文明が成立、発展したところである。山本氏は地球レベルで山岳地域を俯瞰し、そこに熱帯高地という中心軸をもうけて高地の環境と人間との相互関係に関する比較研究を進展させた。

 2011年-2016年には、科学研究費「熱帯高地における環境開発の地域間比較研究―「高地文明」の発見に向けて」を得て、アンデスだけではなく、世界の熱帯高地の文明に関する大型の研究プロジェクトを結成した。このプロジェクトの特徴は、植物学、文化人類学、生態学、人類学、考古学、畜産学など、異なる分野の研究者を集めた文理融合型の大型研究プロジェクトであったことである。参加した10名の研究者は、自分の研究地域だけではなく、他の研究地域と常に比較することが求められ、地域間比較研究の視点が重視された。この分野横断的な比較研究によって、環境利用や農耕文化、独自の宗教体系、都市や帝国の形成などの「文明の編成原理」が実証的に明らかにされた。世界の四大高地としてエチオピア、メキシコ、アンデス、ヒマラヤからチベットなどが研究対象とされ、いずれも緯度の低い熱帯の高地において大きな人口が維持されてきたことを明らかにしている。さらに、その背景には動植物のドメスティケート(家畜・栽培化)がこれらの地域で行われていた点を特に重視している。

 この大型研究プロジェクトの成果は、山本紀夫(編)『熱帯高地の世界:「高地文明」の発見に向けて』(ナカニシヤ出版)として2019年に出版され、さらに2021年には単著『高地文明:もう一つの「四大文明』の発見』(中公新書)が刊行されている。 

「高地文明」はこれまでに広く認知された概念ではなく、山本氏の独自の生態史観に基づく精力的な研究の成果として提唱された新しい概念である。これまで「高地文明」が提唱されなかった要因は、欧米を中心とした文明史観の影響および環境と人間の関係を地球レベルで明らかにしようとする視点が欠如していたためである。今後、山本氏が提唱した「高地文明」仮説の検証が進められることによって、高地における人間と環境との関係についての理解の進展と共に、地球環境学の更なる深化にも大きく資することが期待されている。

 山本氏の重要な功績の一つには、その活発な執筆活動を通じた研究成果の発信がある。2004年以降に限っても単行本を12冊出版し、高地で栄えた文明を多様な視点から紹介している。また、1978年の農学博士号(京都大学)に続き、2014年には学術博士号(文化人類学)を東京大学から授与されたことも、山本氏のたゆまぬ学究の姿勢を表している。その旺盛な研究・出版活動に対しては、松下幸之助花の万博記念奨励賞(2005年),同記念賞(2020年),秩父宮記念山岳賞(2006年),今西錦司賞(2013年)などが授与されている。

 以上のように、山本氏が進めてきた研究のオリジナリティの高さをはじめ、徹底した現地調査に基づく実証的研究、自然科学と人文科学を融合させた調査団の組織化による総合的地域研究の推進、一般社会への成果発信力など、その学問的功績は極めて顕著である。よって、選考委員会は一致して大同生命地域研究賞を授与することを決定した。

 

  (大同生命地域研究賞 選考委員会)