- 現職 :
- 京都大学 名誉教授
- 最終学歴 :
- 京都大学大学院博士課程(1976年)
- 主要職歴 :
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1978年 助手
1986年 京都大学アフリカ地域研究センター 助教授
1996年 京都大学大学院人間・環境学研究科 教授
1998年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授
2010年 京都大学 名誉教授
2011年 財団法人日本モンキーセンター所長
2014年 財団法人日本モンキーセンター所長 退任
現在に至る
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『森の目が世界を問う―アフリカ熱帯雨林の保全と先住民』(京都大学学術出版会、単著、2021)
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Utilization and Potentials of Non-timber Forest Products and Wildlife in Southeast Cameroon (African Study Monographs, suppl. issu.,60, 共編著: H. Yasuoka and M. Ichikawa, 2020).
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Hunting and gathering as techniques (In: Callan, H. ed., The International Encyclopedia of Anthropology, John Wiley & Sons, 単著, 2017).
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Bushmeat crisis, forestry reforms and contemporary hunting among central African forest hunters (In: V. Reyes-García and A. Pyhälä, eds., Hunter-gatherers in a Changing World, Springer, 共著, M. Ichikawa, S. Hattori and H.Yasuoka, 2017)
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Environmental knowledge among central African hunter-gatherers (In: R. Whallon, W.A. Lovis and R.K. Hitchcock, eds, Information and Its Role in Hunter- Gatherer Bands, 共著, M. Ichikawa, S. Hattori and H. Yasuoka,
2011).
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「人間の生活環境としての熱帯雨林―歴史生態学的アプローチ」『文化人類学(旧民族学研究)』74(4),単著, 2010).
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L'évitement alimentaire des viandes d’animaux sauvages chez les chasseurs-cueilleurs d'Afrique centrale. (In: E. Dounias, E. Motte-Florac et M. Mesnil, eds. Le symbolisme des animaux、L’IRD、単著, 2007).
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Problems in the Conservation of Rainforests in Cameroon. African Study Monographs, suppl. issu.,33, 単著, 2006)
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The Japanese tradition of central African hunter-gatherer studies: with comparative observation on the French and American traditions (In: A. Barnard, ed., Hunter-Gatherers in History, Archaeology and Anthropology, Oxford: Berg Publishers, 単著, 2004).
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Comparative ethnobotany of the Mbuti and Efe hunter-gatherers in the Ituri Forest, DRC.(African Study Monographs, 24-1/2. 共著, H. Terashima and M. Ichikawa, 2003).
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Persisting cultures and contemporary problems among African hunter-gatherers. (African Study Monographs, suppl. issu., 26, 共編著, M. Ichikawa, D. Kimura and J. Tanaka、2001).
- 『森と人の共存世界』(市川光雄・佐藤弘明, 共編著、京都大学出版会、2001)
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Man and Nature in Central African Forests, (African Study Monographs, suppl.issu..25, M. Ichikawa, ed., 編著、1998).
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"Interest in the Present" in the nationwide monetary economy: the case of Mbuti hunters in Zaire (In:P. Schweitzer, M. Biesele and R. K. Hitchcock, eds., Hunters and Gatherers in the Modern World. Berghahn, Oxford, 単著、
2000). -
Cultural diversity in the use of plants by Mbuti hunter-gatherers in northeastern Zaire. (In: S. Kented. Cultual Diversity among Twentieth-Century Foragers, Cambridge University Press, 共著, M. Ichikawa and H. Terashima, 1996).
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Co-existence of man and nature in the African rain forest.(In: K. Fukui and R. Ellen eds. Redefining Nature: Ecology. Culture and Domestication, Berg Publishers、単著, 1996).
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『生態人類学を学ぶ人のために』(秋道智彌・市川光雄・大塚柳太郎、世界思想社、共編著、1995).
- 『人類の起源と進化』(共著、黒田末寿、市川光雄、片山一道、有斐閣、1987).
- 『森の狩猟民―ムブティ・ピグミーの生活』(人文書院、単著、1982)
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The residential groups of the Mbuti Pygmies (Senri Ethnological Studies, no.1, 単著, 1978).
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :1979年 理学博士(京都大学)
「アフリカの熱帯雨林と先住民の共存に関する総合的地域研究」に対して
市川光雄氏は1974年から現在まで50年近くにわたり、コンゴ民主共和国のイトゥリの森のムブティやカメルーン東南部のバカなどの、中央アフリカの先住民である狩猟採集社会に関する研究に取り組んできた。同氏の学問的功績は、対象地域の生態系と社会への理解を試み、生態学的手法を基盤としつつ学際的かつ質の高い研究成果として公表し、それを「3つの生態学」として提示したことにある。つまり、総合的地域研究の展開プロセスや枠組みを、自らの研究成果をもって後進たちに説得力ある形で示したのである。
まず「文化生態学」的な研究では、当該地域の人びとが自然をどう認識・利用しているか、また森林環境とどのような関係を保ちながら社会生活を営んでいるかといった点について明らかにしてきた。それは、人々の狩猟採集活動の詳細な記録であるとともに、状況に応じた柔軟な社会編成、互酬性と平等性を基礎にした社会生活・食生活を彩る多様な動植物の利用、それらの文化的意味などについて克明に記述・分析したものである。これは、宗教や社会構造の記載に偏っていた先行研究において見過ごされていた側面を描いた業績として高く評価される。
同氏は、1980年代からは研究をさらに発展させ、野生植物に関する利用と知識に関する組織的な調査に着手した。すなわち、植物利用にみられる集団間の変異と多様性を示し、それらを生み出した社会的背景を分析する一方で、熱帯雨林の植物が有する多様な潜在力を記録・保存するために、共同研究者とともに「アフローラ」と称する熱帯アフリカにおける伝統的植物利用のデータベースの構築に携わってきた。
次に「歴史生態学」的な研究、すなわち人と自然の相互作用の通時的側面の研究では、(1)熱帯雨林の植生には人為の関与を窺わせる二次林性の植生が広汎に分布すること、(2)森の住民が利用する主要な食用植物の多くが原生林よりも二次林的な環境に多く分布すること、(3)キャンプや村の跡地は日当たりがよく、さまざまな生活廃棄物質が集積されて土壌が肥沃化していること、(4)そして人間の廃棄した食物残滓から多くの植物が芽生えること、などを明らかにした。これは、人間の生活環境としての森林が人為の介入によって改善されている側面があるという極めて重要な指摘である。これらの成果は、人間を自然に対立する破壊者とのみ位置づけ、人間活動を排除することが自然保護であると考える西欧的な認識とは一線を画し、人間と自然との共存の可能性を示唆するものである。
このような人間と自然との関係は、より広い社会の政治・経済の動きと無縁ではない。そこで、同氏の研究は「政治生態学」的な研究へと展開した。つまり、狩猟採集社会をはじめとする小規模社会の諸現象を、国家や国際社会の政治・経済状況との関連のなかで理解する研究である。とりわけ、コンゴ盆地最奥部の森林において、商品経済の浸透により狩猟採集生活が変容するなかで、相変わらず以前からの交換レートに基づいた物々交換が継続していたこと、またそうした安定した物々交換システムが狩猟採集民に特有な「現在に向けられた関心」によって維持されていること、などを明らかにした。このような研究は、極度のインフレや賃金・物価の変動に見舞われたコンゴ民主共和国の不安定な状況のなかで、一見すると後進的に見える物々交換や狩猟採集民の生活スタイルが、実は安定した地域の生活と生態系を維持するためのバッファーとして大きな役割を果たしうることを示す重要な学問的貢献といえる。
これらの研究成果は、5冊の和書(単著・共編著)、6冊のAfrican Study Monographs, (Supplementary Issue)(単編・共編)、そして多数の論文で公表され、国際的な評価を得ている。そして、総括的な成果の一端は『森の目が世界を問う―アフリカ熱帯雨林の保全と先住民』(2021年、単著、京都大学学術出版会)として将来の課題も含めてわかりやすく整理されている。
さらに、科研費や21世紀COEプログラム等を通してアフリカ熱帯雨林における地域研究を主導し、多くの若手研究者の育成にも貢献してきた。
以上の理由から、選考委員会は大同生命地域研究賞の授与を決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)