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畑中 幸子 氏 
略 歴

畑中 幸子

現職 :
中部大学 名誉教授
最終学歴 :
東京大学大学院社会学系研究科、文化人類学専門課程(1968年)
主要職歴 :

1965年 Research associate of Harvard Yeng-Ching Institute

1968年 Research Fellow, Research School of Pacific Studies,

             Australian National University

1972年 Senior Fellow, Culture Learning Institute, East West

             Center, University of Hawaii            

1973年 金沢大学法文学部助教授(文化人類学)

1981年 金沢大学文学部教授               

1984年 中部大学国際関係学部教授

1991年 中部大学大学院国際関係学科教授

1994年 中部大学国際地域研究所所長

1999年 Visiting Professor, Vytautas Magnas University, Lithuania

2000年 中部大学名誉教授

     現在に至る

主な著書・論文
  1. 『ニューギニアから石斧が消えていく日-人類学者の回想録-』明石書店、2013
  2. 『リトアニア-民族の苦悩と栄光-』(共著)中央公論新社、2006
  3. 『地域研究入門』(共著)古今書院、2002

  4. 『憎悪から和解へ-地域紛争を考える-』(峯陽一と共編著)京都大学出版会、2000
  5. 『リトアニア-小国はいかに生き抜いたか-』NHKブックス、1996

  6. 『ニューギニア高地社会』中央公論社、1981

  7.  A Bibliography of Micronesia compiled from Japanese publications 1915-1945 学習院大学東洋文化研究所、1979

  8. 『われらチンブー ニューギニア高地人の生命力』三笠書房、1973

  9. 『南太平洋の環礁にて』岩波新書653、1967

  10. 「バルト移民とエスニシティ-アメリカのリトアニア人コミュニティ-」『思想』8号、岩波書店、1992

  11. 「パプアニューギニアにおけるカーゴカルトと社会運動」『民族文化の世界』下巻、小学館、1991

  12.  The Dilemma of the South Pacific Islands-States,Tradition,Ethnicity. Journal de la Société des Océanistes 92-93, Paris

  13.  Ethnicity and Culture complex in the northern minorities. Ethnicity and Ethnic groups in China (共著)、New Asian Academic Bulletin vol.V1, special issue, HongKong, 1989

  14. 「無文字社会の近代化」『歴史と社会』8、リブロポート、1988

  15. 「ニューギニア高地周縁部におけるneolithic trade」『民族学研究』50(2)、1985

  16. 「レアオ島とチャント」歴史的文化像(共著)新泉社、1980

  17. 「プカルア環礁における居住と人口動態」『季刊人類学』8(1)、1977

  18. 「調停者は誰か-ニューギニア高地における文化変容-」民族学研究 40(1)、 1975

  19.  Habitat, isolation and subsistence economy in the Central Range of New Guinea. Oceania 44(1), 1973

  20.  Conflict of laws in a New Guinea Highland Society. Man 8(1), 1971

  21.  The social organisation of a Polynesian atoll. Journal de la Société des Océanistes, TomXXVⅡ (32-33),1971

  22.  Election and political consciousness in Chimbu Province. Journal of the Papua New Guinea Society, 1970

  23. 「プカルア環礁における社会・経済の変化」『民族学研究』31 (3): 203-216、1966

以上のほか、現在に至るまで著書・論文多数

備考 :1968年 社会学博士(東京大学)

    2000年 リトアニア共和国から叙勲:The Order of Lithuanian grand Duke Gediminas

    2001年 総合研究開発機構(NIRA)第二回大来政策研究賞『憎悪から和解へ-地域紛争を考える』

                     (共訳)京大学術出版会

関係訳書 :

『サモアの思春期』(共訳)マーガレット・ミード著、蒼樹書房、1976

『フィールドからの便り』マーガレット・ミード著、岩波書店、1984

『ニューギニア紀行-19世紀ロシア人類学者の記録-』(共訳)ニコライ・ミクロホーマクライ著、1989

業績紹介

「オセアニアにおける長年にわたる文化人類学的調査研究と地域住民支援の功績」に対して

 畑中幸子氏は、日本におけるオセアニア研究のパイオニア的存在の一人である。東京大学大学院社会学研究科博士課程を終了後、オーストラリア国立大学高等研究所太平洋地域研究部や金沢大学文学部教授を経て、中部大学教授、中部大学国際地域研究所長、リトアニア国立ヴィタラタス・マグナス大学客員教授などを歴任され、現在は中部大学名誉教授である。

 

 畑中氏は、1960年代前半に南太平洋のプカルア環礁(仏領ポリネシア)でフィールド調査を行って以来、ニューギニア高地やレアオ環礁(仏領ポリネシア)、ベロナ島(ソロモン諸島)など、いずれも外界から隔絶された社会に長期滞在して、文化人類学的調査を行ってきた。氏が発表した著書のうち、一般読者を対象に書かれた『南太平洋の環礁にて』(1967年岩波新書)は、多くの若い研究者の興味を喚起し、オセアニア研究を始めるきっかけを提供した点で高く評価されている。

 

 1960年代後半には、ニューギニア高地(西セピック州)という、男性にとっても調査を実施するのは容易ではない地域での長期単独調査も行い、日本からニューギニア研究者をその後も多く輩出することにもつながった(『我らチンブー:ニューギニア高地人の生命力』(中公文庫 1974年)など)。氏の友人であった作家有吉佐和子が、調査中の氏を訪ねた紀行『女二人のニューギニア』(朝日新聞社1969年、朝日文庫 1985年)を発表し、過酷な調査地の様子が一般に紹介されたことでも知られている。

 

 他方で、世界的に著名なオセアニア研究者マーガレット・ミードの著作の翻訳出版も行い(『サモアの思春期』蒼樹書房1976年(山本真鳥と共訳);『フィールドからの手紙』 (岩波現代選書) 1980年岩波書店)、オセアニア研究の普及にも努めた。

 

 1980年代後半からは、民族問題や難民問題へと興味を移し、独立を果たしたリトアニアで調査研究を行った。『リトアニア : 小国はいかに生き抜いたか』 (NHKブックス、1996年)や『リトアニア 民族の苦悩と栄光』(ユオザスチェパイティスとの共著、中央公論新社 2006年)等の著作を通じて現代社会における民族問題を追究した。これら畑中氏のリトアニアにおける一連の研究に対して、2000年にリトアニア政府から文化勲章(The Order of Lithuanian Grand Duke Gediminas)が授与された。

 

 近年は、再びニューギニア高地社会を訪れ、半世紀前の調査地を対象に研究を継続させている。グローバル化に呑みこまれつつある社会の変化の様子を、当時の記録と対比させた分析を行い、『ニューギニアから石斧が消えていく日 : 人類学者の回想録』(明石書店2013年)を出版した。未発表の貴重な資料と共に、現代的な問題にも焦点をあてており、急速に貨幣経済へと変貌したパプアニューギニア社会において、伝統的な社会慣習がどのような形で残り、変化しつつあるかなどを鮮やかに描き出した。同時に、近代化の地域格差が生み出す数多くの難題も浮き彫りにしている。

 

 なかでも、交通が極端に不便な内陸高地地域では、最低限の初等教育すら満足に実施されておらず、本来なら鉱山開発に伴って、開発主体から利益を得られる立場にある地域住民が、疎外・搾取される状態にあった。この状況を憂慮した畑中氏は、現地に小学校を建設するための援助活動をはじめた。日本の小学校に寄付を呼びかけ、学用品や中古衣類などをニューギニア内陸高地の部族社会の学童に届ける活動を行っている。氏の活動を通じて教育の重要性を認識した近隣の部族社会でも小学校が開設されるなど、その活動は広く実を結びつつある。

 

 このような、畑中幸子氏の長年にわたるオセアニア地域研究および、ニューギニアの地域住民への多大なる貢献は、大同生命地域研究特別賞にふさわしいものと高く評価される。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)