- 現職 :
- 京都大学名誉教授
- 最終学歴 :
- 東京大学大学院社会学研究科文化人類学研究室(1970年)
- 主要職歴 :
- 1970年 京都大学霊長類研究所助手
- 1976年 同上 助教授
- 1981年 弘前大学人文学部教授
- 1986年 京都大学アフリカ地域研究センター教授
- 1998年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授
- 2004年 同上 定年退官、京都大学名誉教授
- 現在に至る
-
“The Bushmen: A Half-Century Chronicle of Transformations in Hunter-Gatherer Life and Ecology” Kyoto University Press & Trans Pacific Press, 2014
-
“An Encyclopedia of /Gui and //Gana Culture and Society”(共編著)Kyoto University, 20102
-
『ブッシュマン、永遠に。――変容を迫られるアフリカの狩猟採集民』〔昭和堂, 2008〕
-
『遊動民ノマッド――アフリカの原野に生きる』(共編著)〔昭和堂, 2004〕
-
『カラハリ狩猟採集民――過去と現在』(共編著)〔京都大学学術出版会, 2001〕
-
『続 自然社会の人類学――変貌するアフリカ』(共編著)〔アカデミア出版会, 1996〕
-
“African Study Monographs” Supplementary Issue No. 22.(共編著)Kyoto University, 1996
-
『最後の狩猟採集民――歴史の流れとブッシュマン』〔どうぶつ社, 1994〕
-
『ヒトの自然誌』(共編著)〔平凡社, 1991〕
-
『アフリカを知る事典』(共編著)〔平凡社, 1989〕
-
『自然社会の人類学――アフリカに生きる』(共編著)〔アカデミア出版会, 1986〕
-
“The San Hunter-Gatherers of the Kalahari: A Study in Ecological Anthropology” University of Tokyo Press, 1980
-
『砂漠の狩人――人類始源の姿を求めて』〔中央公論社, 1978〕
-
“A San Vocabulary of the Central Kalahari: //Gana and /Gui Dialects” Tokyo University of Foreign Studies, 1978
-
『人類の生態』生態学講座 25(共著)〔共立出版, 1974〕
-
『ブッシュマン――生態人類学的研究』〔思索社, 1971 (新装版1990)〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :1974年 理学博士(京都大学)
「アフリカの狩猟採集民研究と地域研究に対する国際的貢献」に対して
田中二郎氏の学問的な功績は、長期にわたる詳細な現地調査にもとづいてブッシュマン社会の研究をおこない、その社会と文化に関する詳細な民族誌的記述を書きあらわし、彼らの平等主義的な社会関係や文化的な態度に関する総合的な考察をおこなった点にある。
同氏は独立(1966 年9 月)直後のボツワナ共和国に出かけ、16 ヶ月におよび狩猟採集民ブッシュマンの現地調査を行った。この調査は、日本におけるアフリカ地域研究の本格的開始となった京都大学の学術調査の一環として行われたものであり、サル、類人猿の社会から人間社会への進化の糸口を探る目的をもった学術調査であった。この調査のなかで同氏のブッシュマン研究は、人類社会の始源的な姿を探り出す研究として位置づけられるものであった。それは人類進化に関する研究の中心地であった京都大学理学部を卒業後、東京大学大学院社会学研究科修士課程で文化人類学を学んだ同氏にとってまさに打って付けの研究課題であったといえる。
同氏はその研究成果を『ブッシュマン―生態人類学的研究』(1971)として発表した。それは、現存の狩猟採集社会に共通した生計様式の分析研究が、人間社会の進化の考察に価値ある資料を提供しうることを示した書として、個別のブッシュマン社会研究にとどまらず、生態人類学の理論的確立に大きく寄与するものとなり高く評価されることになった。後に増補改訂された ”The San Hunter-Gatherers of the Kalahari: A Study inEcological Anthropology” (1980) は、国際的に高く評価され、その後のブッシュマン研究の古典となった。
この研究成果は、幾つかの留保が必要であることを認めつつも人類進化史研究と文化人類学とを結びつける架け橋になる分野を切り拓くものとなり、世界の狩猟採集民研究の発展に大きな貢献をした。この研究を出発点として開始されたピグミーなど他の狩猟採集社会との比較・分析の研究において同氏は、狩猟採集社会に関する生態人類学的研究を推進し、狩猟採集社会を人類進化史上に位置づけることに貢献したのである。
さらに同氏は、急速に変容するブッシュマンの社会や文化を、彼らをとりまく経済的、政治的な社会環境の変動との関連において明らかにする研究を精力的に推し進め、貨幣経済の浸透という状況のもとで、平等主義の原則がいかなる変質をこうむるのかを分析すると同時に、少数民族の文化的アイデンティティをサポートする体制の必要性を論じた。この研究は、『最後の狩猟採集民―歴史の流れとブッシュマン』(1994)にまとめられ、狩猟採集社会の変容に関する研究に大きなインパクトを与え、その後のブッシュマン研究の多方面の展開の基礎を創った。
狩猟採集民研究にとどまらず、同氏は、日本におけるアフリカ地域研究や生態人類学的研究を牽引する中心人物として、つねに第一線で活動し、多くの業績をあげてきた。それらの成果は、『自然社会の人類学―アフリカに生きる』(1986)、『アフリカを知る事典』(1989)、『ヒトの自然誌』(1991)、『続 自然社会の人類学―変貌するアフリカ』(1996)、『カラハリ狩猟採集民―過去と現在』(2001)といった編著書等に結晶している。さらには、生態人類学会会長や日本アフリカ学会会長を歴任し、また京都大学においてはアフリカ地域研究センターや大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の設置に中心的に関わり且つセンター長や研究科長としてその運営に携わり、日本のアフリカ地域研究の推進に多大な貢献をしてきた。
その高い人格と見識をもって、国内外における地域研究の発展、学生、若手研究者の育成に尽力してきた功績も非常に顕著なものがある。
よってここに地域研究賞の授与を決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員)