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大山 修一 氏
略 歴

大山 修一

現職 :
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 准教授
最終学歴 :
京都大学大学院 人間・環境学研究科 修了(1999年)
主要職歴 :
1999年 東京都立大学 理学研究科 地理学教室 助手
2008年 首都大学東京 都市環境科学研究科 地理学教室 准教授
2010年 京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 准教授
現在に至る
主な著書・論文
  1. 「地球環境問題と生態人類学」『アフリカ学事典』〔昭和堂, 2014〕
  2. 「西アフリカ・サヘル帯の干ばつと飢饉から生まれた緑化技術:ハウサ社会における資源としてのゴミの有用性」横山智編『資源と生業の地理学』〔海青社, 2013〕
  3. Land rehabilitation methods based on the refuse input: local practices of Hausa farmers and application of indigenous knowledge in the Sahelian Niger. Pedologist 55(3) 2012
  4. 「アフリカの地理学―地理学における新しいパートナーシップの確立にむけて」『地学雑誌』121(5), 2012
  5. 「西アフリカ・サヘル帯における農村の生業を支える伝統的慣行と食料不足の拡大」松井 健・野林厚志・名和克郎 共編『生業と生産の社会的付置:グローバリゼーションの民族誌のために』〔岩田書院, 2012〕
  6. 「ザンビアにおける新土地法の制定とベンバ農村の困窮化」掛谷誠・伊谷樹一編『アフリカ地域研究と農村開発』〔京都大学学術出版会, 2011〕
  7. 「アフリカ農村の自給生活は貧しいのか?」『E-Journal GEO』5 (2), 2011
  8. Ecological knowledge of Hausa cultivators and in situ experiment of the land rehabilitation in Sahel, West Africa. Geographical Reports of Tokyo Metropolitan University 45, 2010

  9. 「ニジェール南部の乾燥地農耕と砂漠化に対する農耕民の認識」『農耕の技術と文化』27, 2010

  10. 「ザンビアの農村における土地の共同保有にみる公共圏と土地法の改正」児玉由佳編『現代アフリカ農村と公共圏』〔アジア経済研究所, 2009〕

  11. 「ジャガイモの栽培化:ラクダ科動物との関係から考える」『国立民族学博物館調査報告』84, 2009

  12. 「ニジェール共和国における都市の生ゴミを利用した砂漠化防止対策と人間の安全保障:現地調査にもとづく地域貢献への模索」『アフリカ研究』71, 2007

  13. 「ラクダ科野生動物ビクーニャの生態と保護」山本紀夫編『アンデス高地』〔京都大学学術出版会, 2007〕

  14. 「糞とジャガイモの不思議な関係」山本紀夫編『アンデス高地』〔京都大学学術出版会, 2007〕

  15. 「西アフリカ・サヘル地域における農耕民の暮らしと砂漠化問題」池谷和信・佐藤廉也・武内進一編 『世界地誌 アフリカⅠ 総説、イスラムアフリカ、エチオピア』〔朝倉書店, 2007〕

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :1999年  人間・環境学 博士(京都大学)

業績紹介

「アフリカ地域における環境と生業に関わる学際的、実践的研究」に対して

 大山修一氏の地域研究は、住民からの詳細な聴き取り、生態環境の徹底した観察・記録、精力的な計量・計測の実践をもとにした自然・人間関係の総合的把握を特色としている。同氏は、参与観察によって地域の自然と社会の特性を把握し、生業をめぐる在来の知恵から学ぶ一方で、土壌の化学分析、気象観測の実施、リモートセンシングやGIS(地理情報システム)の駆使など、多彩な分析手法を効果的に組み合わせ、真に文理融合、インターディシプリナリーな研究を行ってきた。この点が大山氏の地域研究に対する貢献のひとつである。

 さらに、この総合的把握の成果のうえに、圃場(ほじょう)()実験等を取り入れながら環境修復や土地紛争予防に役立つ実践的研究を行っている。これは地域研究における研究と地域開発実践との連携にひとつの新しい方法を示すものであり、同氏のもうひとつの貢献であるといえる。

 大山氏のアフリカ研究はザンビア北部に住む焼き畑農耕民ベンバの農業研究から始まった。ミオンボ疎開林に住む農耕民ベンバの農業が、1980年代以降の構造調整計画の中で大きく変化し、それが環境変化にも影響を与えてきたことを明らかにした。市場から遠く離れたベンバの農民たちは、トウモロコシの全国一律買い上げ制度の廃止に直面し、耕作形態のみならず家畜飼養方法も変化させてきた。それがこの地域の環境、とりわけ森林生態に様々な影響を与えてきたことを、リモートセンシングやGISを用いた土地利用の変化から動態的に示したのである。

 このような自然・人間関係の総合的理解を追究する同氏の関心は、やがて「新しいアフリカの成長」の中で進行する自然環境の荒廃問題、とりわけサヘル帯における砂漠化(土壌荒廃)問題に向かった。調査の結果、ニジェールのサヘル帯では、市場の自由化や幹線道路の整備が進む中で、都市部での経済活動が活発化し、農村から都市への有機物の流れが急速に増大してきたこと、その結果、農村部で食料不足や土壌荒廃が起き都市部ではゴミ処理と衛生問題が起きるという同時荒廃を引き起こしていることが明らかになってきた。一方、農耕民ハウサや牧畜民フルベ、トゥアレグの環境利用や社会構造、暮らしに関する詳細な現地調査で、ハウサの人びとが土地荒廃や干ばつに翻弄されるだけではなく、耕作地内の荒廃地にゴミを投入することで自ら環境修復を行ってきたことも明らかとなった。

 これらの研究成果を現地における環境修復の方法を探る実践的研究へと発展させようと考えた大山氏は、都市ゴミに含まれる栄養分と重金属の含有量の測定を行い、施肥効果と安全性を検討したうえで圃場実験に踏み切ることにした。圃場実験の成果は、農村と都市両方の環境修復に役立つばかりではなく、家畜による食害が発端となる農耕民と牧畜民の衝突予防にも役立つことが期待され、2006年6月にニジェール政府承認のNGO「砂漠化防止と都市衛生改善プロジェクト」の立ち上げにつながった。社会が直面する問題点を住民の視点にたって析出し、その問題の解決策を地元の技術や思想の文脈で考えると同時に、科学的裏付けをも追求するこのような実践的研究は、地域研究の成果を地域に還元するひとつの具体的事例であり特筆すべき実践的研究であるといえる。

 大山氏には、上記に挙げたザンビアと西アフリカのサヘル帯における研究だけではなく、南米・アンデス山脈におけるジャガイモの栽培化とラクダ科動物(リャマ、アルパカ)の家畜化プロセスに関する研究成果などもあり、人間の環境開発の歴史を視野に入れた研究成果も多い。

 徹底したフィールドワークによって住民の生活世界の理解に努め、同時に科学的分析手法も駆使して総合的理解に努める大山氏の研究は、マクロとミクロな視点を往還する自由な発想と大きなエネルギーを必要とするもので高く評価できる。また、地域研究の成果を地域開発の実践につなげる同氏の試みは、地域研究に新しい地平を拓くものであり高く評価できる。以上の理由から同氏の研究は研究奨励賞に相応しいものと考える。

紹介者: 島田 周平
(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 特任教授)