- 現職 :
- 津田塾大学 学芸学部 准教授
- 最終学歴 :
- 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了(2010年)
- 主要職歴 :
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2010年 京都大学地域研究統合情報センター研究員
2014年 京都大学東南アジア研究所日本学術振興会特別研究員(PD)
2016年 津田塾大学学芸学部准教授
- 現在に至る
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“Mapping Theravada Buddhist Practices in Dehong, Yunnan, China”〔Satoru Kobayashi, Yukio Hayashi, Hideo Sasagawa, and Miwa Takahashi(ed.)Mapping Buddhist Cultures among Theravadin in Time and Space, Center for Integrated Area Studies, Kyoto University, 2017〕
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“Script, Text, and Voice: Micro-Regional Connectedness in the Articulation of Palaung Buddhism in Northern Myanmar”〔Toko Fujimoto and Takako Yamada (ed.) Migration and the Remaking of Ethnic/Micro-Regional Connectedness, Senri Ethnological Studies 93, 2016〕
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“Tai Buddhist Practices on the China-Myanmar Border”〔Su-Ann Oh (ed.) Myanmar's Mountain and Maritime Borderscapes: Local Practices, Boundary-making and Figured Worlds, 2016〕
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「ミャンマー上座仏教と日本人—戦前から戦後にかけての交流と断絶」〔大澤広嗣編『仏教をめぐる日本と東南アジア地域』勉誠出版、2016年〕
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「山地民パラウンの越境と仏教実践の独自性—ミャンマー・シャン州ナムサン周辺地域の事例から」〔『東南アジア研究』53(1)、2015年〕
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「中国・ミャンマー国境地域における仏教実践の再構築—文革後における徳宏タイ族の越境と地域に根ざす実践の動態」〔藤本透子編『現代アジアの宗教—社会主義を経た地域を読む』春風 社、2015年〕
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「中国・ミャンマー国境地域における徳宏タイ族仏教徒の人生と姓名」〔『マテシス・ウニウェルサリス』16(2)、2015年〕
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『移動と宗教実践―地域社会の動態に関する比較研究』(編著)〔京都大学地域研究統合情報センター、2015年〕
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『国境と仏教実践―中国・ミャンマー境域における上座仏教徒社会の民族誌』〔京都大学学術出版会、2014年〕
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“From Tea to Temples and Texts: Transformation of the Interfaces of Upland-Lowland Interaction on the China-Myanmar Border”〔Southeast Asian Studies 2(1),2013〕
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“Tai Buddhist Practices in Dehong Prefecture, Yunnan, China”〔Southeast Asian Studies 1(3),2012〕
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『中国・ミャンマー国境地域の仏教実践―徳宏タイ族の上座仏教と地域社会』〔風響社、2011年〕
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「徳宏地域の実践仏教」〔奈良康明・下田正弘編『静と動の仏教-新アジア仏教史04.スリランカ・東南アジア』佼成出版社、2011年〕
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「中国雲南省徳宏州における上座仏教-戒律の解釈と実践をめぐって」〔『パーリ学仏教文化学』23、2009年〕
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「現代ミャンマーにおける仏教の制度化と<境域>の実践」〔林行夫編『<境域>の実践宗教―大陸部東南アジア地域と宗教のトポロジー』京都大学学術出版会、2009年〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2010年 博士(地域研究、京都大学)
「東南アジア上座仏教文化の地域間比較研究」に対して
小島敬裕氏は、今日世界で2億人近い上座(テーラワーダ)仏教徒の宗教と社会を対象とする地域研究に携わる研究者である。ミャンマーで出家した経緯もあり、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科進学後は、同国でのフィールドワークを継続し、博士予備論文(修士論文に相当)で同国の上座仏教の実践と法制度について詳細なモノグラフを上梓した。(「現代ミャンマーにおける仏教と国家―「1980年全宗派合同会議」後の制度化の現実」2005年)
その後、ミャンマーと中国との国境地域にある雲南省徳宏州のタイ族集落で長期定着調査を行い、同地域での上座仏教徒の宗教実践と社会変化の様態を明らかにした。(博士論文「中国雲南省における徳宏タイ族の宗教と社会―国境地域の仏教徒の実践をめぐって」2010年)
近年では、ミャンマー上座仏教徒と日本との歴史的な関わりについて、両国の史資料やインタビューを通して双方向的な分析を試み、複数国を跨ぐ仏教実践の動態を解明するパイオニア的な業績を重ねている。
小島氏の研究業績のきわだった特徴は、以下の三点にまとめられる。
第一に、国境を跨る地域での定着調査研究を実現した点である。従来の東南アジア大陸部の上座仏教徒社会研究は、一国を単位とするものが中心だったが、現実の仏教徒の実践は、歴史的に地域や国境を越えて築かれている。戦後の冷戦体制下では、そうした局面を実証的に解明するフィールドワークは実現できなかった。また、国境周辺地域の住民のあいだでは複数の言語が使われており、仏教実践を人々の暮らしの内側から理解するためには複数の現地語を習得する必要がある。すでに中国語とミャンマー語に習熟していた小島氏は、ミャンマー=中国国境地域の徳宏タイ語も習得することで、ミャンマー語、中国語、徳宏タイ語を駆使したフィールドワークをなしとげた。さらに、その前提として、政治的にセンシティブな国境地域で外国人研究者が調査許可を得るためには複雑かつ忍耐強い交渉が必要となるが、同氏は卓抜した現地語の運用能力、それに基づく誠実かつ真摯なるコミュニケーション能力をもって、関連機関の関係者との信頼関係を構築して実現させた。その結果、従来未踏の地域での上座仏教徒の宗教と社会についての民族誌的資料を収集して先行研究の欠落を補ったのみならず、出家者の存在を不可欠とする、これまでの上座仏教徒社会論にたいし、在家の儀礼専門家が日常的な宗教実践で中心的役割を果たしている現実を具体的に明らかにした。この学術的貢献はたいへん大きい。
第二の特徴は、国境地域における宗教実践の動態を、地域社会や複数の国家間の位相において捉える点である。小島氏はまず、中国側の徳宏タイ族による仏教実践の担い手の多くがミャンマー側からの越境者であることを悉皆調査で実証した上で、国境地域の仏教に変化をもたらす人やモノの移動と、中国・ミャンマー両国の政策や地域の経済変化との関係性を明らかにした。こうした複数の国家を跨ぐ実証的な研究は、生活をともにしたフィールドワークに加え、複数言語による浩瀚かつ領域横断的な文献の渉猟が必要であり、地域研究の新たな地平を拓くものである。
第三に、国境を越える仏教徒のネットワークや出家行動の東南アジア大陸部の他地域との異同について、地域情報学の手法を援用した地域間比較研究を行った点である。徳宏の上座仏教が、歴史的にミャンマーとのネットワークを維持してきたことは、すでに先行研究でも指摘されてきた。しかし出家者の具体的な移動経路や、仏教徒の出家・還俗パターンの他地域との共通性・相違点については明らかにされてこなかった。小島氏は、瑞麗市内の仏教関係全施設において、出家者・在家修行者に対する悉皆調査を実施し、その移動経路を地図上にマッピングするとともに、ライフヒストリーをチャート化した。それに基づいて上座仏教徒社会の他地域との比較研究を行った結果、移動パターンの地域差や、出家行動の他地域との異同を可視化することに成功した。
以上の研究は、モノグラフ『国境と仏教実践―中国・ミャンマー境域における上座仏教徒社会の民族誌』(京都大学学術出版会、2014年)としてまとめられ、高い評価を得ている。
そして近年では、山地民と平地民の仏教実践を媒介とする関係に着目した研究(「山地民パラウンの越境と仏教実践の独自性―ミャンマー・シャン州ナムサン周辺地域の事例から」『東南アジア研究』53巻 1号、9-43頁、2015年など)や、戦前から戦後にかけてのミャンマーと日本の仏教徒の交流と断絶について、両国での調査と文献から、仏教についての相互の認識と実践の相違を浮き彫りにする研究(「ミャンマー上座仏教と日本人―戦前から戦後にかけての交流と断絶」大澤広嗣編『仏教をめぐる日本と東南アジア地域』勉誠出版、43-64頁、2016年)に取り組んでいる。いずれもこれまで十分に解明されてこなかった課題であり、今後の展開が期待される。
これらの個人研究のほか、複数の科研プロジェクトに参加して分担者として貢献するとともに、対象地域や学問分野を越えた研究者との共同研究を組織してその成果を公刊している。(小島敬裕編『移動と宗教実践―地域社会の動態に関する比較研究』京都大学地域研究統合情報センター、2015年)
国内学会においては、東南アジア学会の委員として貢献しているほか、国際学会でも積極的に発表を行い、着実に業績を重ねている。(Tai Buddhist Practices in Dehong Prefecture, Yunnan, China. Southeast Asian Studies 1(3). pp. 395-430, 2012など)
以上の業績から、小島氏は非凡にして堅実、かつ誠実な地域研究者スピリッツを継承した人物であり、日本の地域研究を牽引するホープであると評価でき、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)