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村上 勇介 氏
略 歴

村上 勇介

現職 :
京都大学地域研究統合情報センター 准教授
最終学歴 :
筑波大学大学院修士課程地域研究研究科修了(1991年)
主要職歴 :

1987年 メキシコ国立自治大学国際関係センター研究員

1991年 在ペルー日本国大使館専門調査員

1994年 在ペルー日本国大使館理事官

1995年 国立民族学博物館地域研究企画交流センター助手

2002年 国立民族学博物館地域研究企画交流センター助教授

2006年  京都大学地域研究統合情報センター助教授

2007年  同上              准教授

    現在に至る
主な著書・論文
  1. 『融解と再創造の世界秩序』(共編著)〔青弓社、2016年〕

  2. 『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(編著)〔京都大学学術出版会、2015年〕

  3. La actualidad política de los países andinos centrales en el gobierno de izquierda. (『左派政権下の中央アンデス諸国における政治の現在』編著)  Lima: Instituto de Estudios Peruanos, 2014.

  4. América Latina en la era posneoliberal: democracia, conflictos y desigualdad.(『ポスト新自由主義期のラテンアメリカ─民主主義、紛争、不平等』編著)Lima: Instituto de Estudios Peruanos, 2013. 

  5. Dinámica político-económica de los países andinos.(『アンデス諸国の政治経済変動』編著)Lima: Instituto de Estudios Peruanos, 2012.

  6. Perú en la era del Chino: la política no institucionalizada y el pueblo en busca de un Salvador. 2ª. edición(『フジモリ時代のペルー─制度化しない政治、救世主を求める人々』第2版)Lima: Instituto de Estudios Peruanos, 2012. (第1版 2007年)

  7. “‘Aquí las personas cambian, teniente, nunca las cosas’: una reflexión sobre la política peruana actual desde una perspectiva institucional.”(「『ここでは人は代わるのだが、ものごとは変わらない』─制度の視点からのペルー政治に関する一分析」)Argumentos (Lima: Instituto de Estudios Peruanos), 6 (1),  2012.

  8. Enduring States: in the Face of Challenges from Within and Without. (coeditor) Kyoto: Kyoto University Press, 2011.

  9. “Fuerza y límites del‘fujimorismo sin (Alberto) Fujumori’.”(「『(アルベルト)   フジモリなきフジモリ路線』の強さと弱さ」共著)En Carlos Meréndez (ed.), Anti-candidatos: guía analítica para unas elecciones sin partidos. Lima: Aerolíneas Editoriales S.A.C., 2011.

  10. 「フジモリ後のペルーにおける軍人の政軍関係への認識─意識調査からの一考察」〔『ラテンアメリカ研究年報』30、2010年〕

  11. 『現代アンデス諸国の政治変動─ガバナビリティの模索』(共編)明石書店、2009年。

  12. 「地域社会開発への住民参加─ペルーの事例から」篠田武司・宇佐見耕一編『安心社会を創る─ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ』新評論、2009年。

  13. “Putnam's Social Capital Theory and Democracy in Peru: An Analysis Based on the Studies about the Political Attitudes and Participation of Popular Sectores in Lima”. In Tomomi Kozaki, Naoya Izuoka, and Yuko Honya (eds.), Civic Identities in Latin America? Tokyo: Keio University Press, 2008.

  14. 「ペルーの2006年選挙の分析」〔『地域研究』8(1)、2008年〕

  15. 「ペルーの選挙運動─2000年選挙におけるある国会議員候補の事例」〔『地域研究』7(1)、2005年〕

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :2011年 筑波大学博士(政治学)

業績紹介

ペルーを中心とするラテンアメリカの政治動態の研究」に対して

 村上勇介氏は、ペルーを中心とするラテンアメリカ諸国の国家と社会について、フィールド調査に基づく実証的な研究を行ない、国内外で高く評価されている地域研究者である

 

 同氏の研究は三つの柱をもつ。一つは、政治のマクロ的分析である。1970年代終わりから「民主化」が進んだラテンアメリカでは、民主主義体制が十分定着せず不安定化する例も多く見られた。不安定化する要因として、各国の持つ歴史的な経緯や構造的な背景があることに着目した氏は、ペルー政治を対象としてフィールド調査と文献調査を合わせた研究を行った。1990年代のフジモリ政権期を分析した著書『フジモリ時代の ペルー:救世主を求める人びと、制度化しない政治』(2004年、平凡社)は、民主主義か権威主義かという体制分類よりも、政治秩序が制度化を欠いている点にペルー政治の特質があると強調した卓越した内容である。本書は、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の発展途上国研究奨励賞を受賞するなど高く評価され、スペイン語に翻訳されたものは、現在に至るまで版を重ねている

 

 第二の柱は、第一の柱のマクロ分析を検証するために行うミクロレベルの調査研究である。氏は、ペルーの国会議員候補者の選挙運動の過程を丹念に観察したほか、1998年以降はペルー中部の都市を対象とし、地方選挙をめぐる政治過程の詳細な調査分析を継続している。選挙過程に参与しつつ実施した調査では、候補者の選ばれ方や選挙運動の展開過程、候補者と有権者との間の相互作用関係などの微視的な観点からの資料を 集積してきた。学術論文や研究集会で発表されたこれらの成果は、マクロ分析で得られたペルー政治の特質を再検討するのに欠かせない貴重な資料であるばかりか、それ自体が臨場感ゆたかなモノグラフとなっている

 

 第三の柱は、政治に関わる人々の意識そのものに分析視点を据えた研究である。氏は、アンケート調査や政治社会運動への人々の関わり方に関して研究をおこない、政治関心、政治や政治家に対する認識、政治経験、民主主義観といった点について分析を積み重ねてきた。その成果の一つ『下層の人々にとっての民主主義:リマ下層民の政治意識と政治行動に関する一分析』(2000年、スペイン語)は、米国において非常に高い評価を得ており、政治学や社会学を教えるペルーの大学では標準テキストの一つになっている

 

 近年は、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ベネズエラなどのアンデス諸国、そしてラテンアメリカ全体の比較研究へと研究範囲は広がりつつある。具体的には、政治経済動態や新自由主義の政治社会への影響をテーマとしたもので、刊行した書籍や論文は数多くの書評や報道で取り上げられるなど、特に現地で大きな関心を集めている。また、中東欧・ロシアや中東などラテンアメリカ以外の地域との比較にも着手し、共編著『ネオリベラリズムの実践現場:中東欧・ロシアとラテンアメリカ』(2013年、京都大学学術出版会)を刊行するなど、日本のラテンアメリカ地域研究を深化させ、かつその地平を拡げる活動も積極的に進めてきている

 

 同氏の研究成果は前出のものを含む12冊の著書、編著書(日本語6冊、英語1冊、スペイン語9冊)として世に出され、特にスペイン語による出版物に対する国際的な評価は非常に高い。ラテンアメリカに関する代表的な研究を選抜して紹介する米国議会図書館責任編集の書誌年鑑(HLAS) には、氏の7冊の研究書が掲載されていることがそれを顕著に示している

 

 国内では、日本ラテンアメリカ学会や地域研究コンソーシアムの理事や事務局長を務め、ラテンアメリカ関連の大きな国際研究大会を事務局責任者として日本において 成功させるなど、ラテンアメリカ地域研究の中心人物の一人として第一線で活躍している。国外では、アジア太平洋地域のラテンアメリカ研究機関の協議組織であるアジア太平洋ラテンアメリカ研究協議会会長の任にもある

 

 上記の卓越した研究業績に加えて、近年は、森林保全ガバナンス構築に関する国際協力機構(JICA)国際協力プロジェクトなどの実践的な活動にも関与しており、研究の成果を地域開発の実践につなげる同氏の試みは、地域研究の新しい方向性を示すものであり高く評価できる

 

 以上のような村上勇介氏の研究能力や学術活動の実行力などを高く評価し、さらにまたラテンアメリカ地域研究の新たな展開を期待して、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)