- 現職 :
- 早稲田大学韓国学研究所 招聘研究員・事務局長
- 最終学歴 :
- 京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程(2000年)
- 主要職歴 :
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2000年 国立民族学博物館地域研究企画交流センター研究員
2008年 国立地球環境学研究所客員研究員
2009年 京都大学地域研究統合情報センター客員研究員
2010年 東京大学大学院情報学環現代韓国研究センター特任教授
2014年 早稲田大学韓国学研究所上級研究客員教授兼事務局長
2016年 早稲田大学韓国学研究所招聘研究員兼事務局長
- 現在に至る
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『沿海州における北朝鮮労働者の実態と人権』共著〔韓国統一研究院, 2015〕
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『さらば愛しい平壌』編訳〔平凡社, 2012〕
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『東北アジアの韓民族社会の歴史的形成過程および実態』共著〔韓国統一研究院, 2004〕
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『中央アジア少数民族社会の変貌―カザフスタンの朝鮮人を中心にー』著書〔昭和堂, 2002〕(第19回大平正芳記念賞)
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「沿海州地域における苦闘する多文化韓人たち」『韓民族の海外同胞の現住所』〔ハクヨン文化社, 2012〕
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「沿海州コリアンコミュニティーの現状にみるもの」『グローバル化と韓国社会』〔国立民族学博物館, 2007〕
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「ロシア沿海州地域における中国朝鮮族の現状」『朝鮮族のグローバルの移動と国際ネットワーク』〔アジア経済問題研究所, 2006〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2000年 博士(人間・環境学)(京都大学大学院)
「朝鮮人に関するグローバルな地域研究の推進」に対して
李愛俐娥(李エリア)氏は、韓国やコリアンタウンを中心とする朝鮮人研究とは異なり、中央アジアやロシア沿海州などを対象に、現地調査にもとづく朝鮮人に関するグローバルな地域研究を新たに開拓した。さらに、日本の諸大学における韓国学に関する研究所の設立に貢献するなど、幅広い研究活動を実践している点においても高く評価される。
李エリア氏の研究は大きく二つに分けられる。
第一に、「高麗人」と呼ばれる中央アジアの朝鮮人に関する研究である。
同氏は、20世紀半ばに旧ソ連極東地域からカザフスタンを中心に中央アジアに強制移住させられた朝鮮人社会について、ソ連崩壊直後1990年代に現地調査が可能となった好機を捉えて、現地のアーカイブズ調査とともに、アンケートを含む聞き取り調査を行い、社会主義時代からポスト社会主義期までの社会変容を明らかにした。
アーカイブズ調査として、ロシアだけでなくカザフスタンの中央および地方の史料を幅広く渉猟することによって、旧ソ連時代には閲覧できなかった秘密文書の発見などの成果がもたらされた。
聞き取り調査としては、スターリン時代の1937年に沿海州から中央アジアに強制移住された経験をもつ数少ない朝鮮人への証言を得るとともに、同氏が注目したのは、朝鮮語で「ゴボンジル」(相互扶助の意)と呼ばれる農業経営の独特の方式である。旧ソ連圏で実施されていた集団農場の下部組織「ブリガード」を家族など親類縁者によって構成し、出稼ぎ請負農業に従事するという、エスニック集団による創意工夫に関して、先駆的な研究成果がもたらされた。
このように、歴史学および社会学の方法論を学術的に組み合わせた研究成果は、中央アジアの朝鮮人に関する日本で初めての学術書として刊行され、日本の地域研究の展開に大きく貢献した。
第二に、ロシア沿海州における多文化・多国籍のコリアン研究の一環として取り上げられた北朝鮮からの派遣労働者や、中国国境付近における脱北者に関する研究である。
上述の高麗人のふるさとと言えるロシア沿海州において2000年代から現地調査を 続けてきた李愛俐娥(李エリア)氏は、中国での脱北者の調査を活かすことによって、現在進行中の、ロシアに派遣された北朝鮮労働者の実態調査を行い、組織的な出稼ぎ労働を課題として取り上げることに成功した。人びとの劣悪な労働環境の実態に関する研究成果は、すでに韓国語によってまとめられ、世界で初めての学術的報告書として海外から注目されており、現在、日本語と英語に翻訳中である。
このような、看過されがちな、アジアの現代的な課題を可視化する同氏の取り組みは、日本を基盤にして、中国、ロシア、韓国など北東アジア一帯の朝鮮人コミュニティの国際的なネットワークを活かすという独特の方法論に立脚しており、日本における地域研究の優位点を明示している。日本の地域研究が世界の平和構築に資するうえでの、新しい流れとなるだろうと期待される。
さらに付言すべきは、同氏の国際的な研究活動の旺盛さである。上述のような国境を越えた朝鮮人コミュニティのネットワークに加えて、朝鮮人研究者のネットワークを背景にして、日本の大学等研究機関で国際的な研究活動の運営に従事してきた。 例えば、国立民族学博物館に付置されていた地域研究企画交流センターにおいては、脱北エリートを招いて北朝鮮に関する会議を組織し、2003年には東北アジアのコリアンネットワークをテーマに6者会議のなかで北朝鮮を除く5か国の駐日大使を集めて国際シンポジウムを開催、2005年には南北首脳会談の当事者である韓国の金大中前大統領を招くなど、朝鮮半島問題に大きな関心をもたらした。また、同センターが移管された京都大学地域研究情報統合センターにおいても、同様の会議を組織した。2010年には東京大学大学院に現代韓国研究センターを設立、2013年には早稲田大学韓国学研究所の設立にあたり 韓国の諸財団の財政的支援を得るなど、日本における韓国学研究の拠点形成にも大きく寄与している。
以上のようなこれまでの日本における研究活動全般に対して、李愛俐娥(李エリア)氏に深い敬意を払い、朝鮮人に関するグローバルな研究のさらなる推進を期待して、大同生命地域研究奨励賞に選定するものである。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)