- 現職 :
- 秋田大学国際資源学部 教授
- 最終学歴 :
- 京都大学大学院人間 環境学研究科博士課程修了(2003年)
- 主要職歴 :
- 2004年 鳥取大学乾燥地研究センター 講師
- 2007年 鳥取大学乾燥地研究センター 准教授
- 2008年 総合地球環境学研究所 准教授
- 2013年 秋田大学新学部創設準備 担当教授
- 2014年 秋田大学国際資源学部 教授
- 現在に至る
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「紅海産黒サンゴの生態・採取・加工―イスラームの数珠がつなぐ自然と文化」西本真一・縄田浩志編『アラブのなりわい生態系第5 巻 サンゴ礁』〔臨川書店, 2015〕
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「海洋哺乳動物名にみる家畜観―ジュゴンは「海の成雌ウシ」、イルカは「海の成雌ラクダ」」市川光太郎・縄田浩志編『アラブのなりわい生態系第7 巻 ジュゴン』〔臨川書店, 2014〕
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「砂漠誌―これからの砂漠研究を切り拓くために」縄田浩志・篠田謙一編『砂漠誌―人間・動物・植物が水を分かち合う知恵』〔東海大学出版部, 2014〕
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「ナツメヤシ栽培化の歴史―栄養繁殖、人工授粉、他作物栽培のための微環境の提供」石山俊・縄田浩志編『アラブのなりわい生態系第2 巻 ナツメヤシ』〔臨川書店,2013〕
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「砂漠化対処の「負の遺産」にどう立ち向かうか」星野仏方・縄田浩志編『アラブのなりわい生態系第4 巻 外来植物メスキート』〔臨川書店, 2013〕
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Relationship between Humans and Camels in Arid Tropical Mangrove Ecosystems on the Red Sea Coast. Global Environmental Research, 2013
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干ばつに対する現地住民の生態的・社会的・文化的・宗教的応答―サヘル東端、紅海沿岸ベジャ族における雨乞い儀礼の事例分析から 〔『沙漠研究』23(2), 2013〕
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「石油文明の頂点から考える―何を失ってきたのか、何を残していくのか」石山俊・縄田浩志編『ポスト石油時代の人づくり・モノづくり―日本と産油国の未来像を求めて』〔昭和堂, 2013〕
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Exploitation and Conservation of Middle East Tree Resources in the Oil Era. (Nawata, H., S. Ishiyama and R. Nakamura) Shoukadoh Shoten, 2013 (in Arabic, English, French and Swahili)
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Dryland Mangroves: Frontier Research and Conservation. (Nawata, H. ed.) Shoukadoh Shoten, 2013 (in Arabic and English)
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To Combat a Negative Heritage of Combating Desertification: Developing Comprehensive Measures to Control the Alien Species Mesquite (Prosopis juliflora) in Sudan. 『沙漠研究』22(1), 2012
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Exploitation and Conservation of Middle East Tree Resources in the Oil Era: A Study of Human Subsistence Ecosystems in Arab Societies. Annals of Japan Association for Middle East Studies 26, 2010
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2つのエコトーンの交差地としてのスーダン東部、紅海沿岸域―ベジャ族の適応機構を探る 〔『地球環境』10, 2005〕
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Historical Socio-economic Relationship between the Rashayda and the Beja in the Eastern Sudan: The Production of Racing Camels and Trade Networks across the Red Sea. Senri Ethnological Studies 69, 2005
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乾燥熱帯沿岸域と牧畜システム―人間・ヒトコブラクダ関係に焦点をあてて〔『アジア・アフリカ地域研究』4, 2005〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :2003年 人間・環境学 博士(京都大学)
「中東・北東アフリカにおける未来志向型の地域研究とアラビア語による出版を通じた研究資源の共有化」に対して
縄田浩志氏は、現在、秋田大学国際資源学部国際資源学科資源政策コースの教授である。縄田氏は2003 年、京都大学大学院人間・環境学研究科文化・地域環境学専攻文化人類学講座博士課程を修了後、国立民族学博物館特別客員准教授、鳥取大学乾燥地研究センター准教授、総合地球環境学研究所准教授を経て2014 年に現職に着任された。
縄田氏は生態人類学者としてこれまで北アフリカ、中東地域の熱帯・乾燥地域における地域住民の生業に重点をおいた研究にまい進してこられた。とくにスーダンの紅海沿岸域において、ラクダを飼養する牧畜民ベジャ族の社会における野外調査を通じて、多くの研究成果をあげてこられた。その端緒となったのが人間と自然の相互関係をあつかった学位論文「乾燥熱帯の沿岸域における人間・ヒトコブラクダ関係の人類学的研究—スーダン東部、紅海沿岸ベジャ族における事例分析から」(2003 年 京都大学)である。飼育されるヒトコブラクダ(dromedary)は物資や人の運搬だけなく、ベジャ族に乳や肉を提供する重要な家畜動物となっている。縄田氏はヒトコブラクダが浅海でも活動できることを利用して海中に生息する巻貝の採集をおこなうことに注目した。そして、採集された巻貝がアフリカ、中東地域におけるアラブ社会で保香剤として広域に流通することを確かめた。
縄田氏のスーダンから紅海沿岸部、北アフリカにおける調査研究が大きく展開したのは、総合地球環境学研究所に所属して実施した研究プロジェクト「アラブ社会におけるなりわい生態系の研究―ポスト石油時代に向けて」である。本プロジェクトは、スーダン、サウディ・アラビアの紅海沿岸、エジプトのシナイ半島、アルジェリアのサハラ沙漠において、低エネルギー資源消費による自給自足的な生産活動(狩猟、採集、漁撈、牧畜、農耕、林業)を中心とした生命維持機構、すなわち「なりわい」に重点をおき、地域住民の生活基盤を再構築するためのポスト石油時代における自立的将来像を提起したものである。
具体的には、キーストーン(なりわい生態系で要となる種)のうち、植物ではナツメヤシ、マングローブ、外来植物であるメスキートの研究から、乾燥地における在来植物と外来植物の新たな利用法を開発し、化石燃料に依存しない、食料やエネルギーとしての樹木資源の創出を提案した。一方、動物種ではヒトコブラクダ、サンゴ礁、ジュゴンの研究から、乾燥熱帯沿岸域における生物資源管理のための学術的基盤を提示した。縄田氏の主導した総合的な学術研究は高く評価される。
ポスト石油時代というプロジェクト研究の副題がいみじくも表すように、本研究は植物や化石燃料を使って環境に大きな負荷をかけている現代から再び自然エネルギーをたくみに利用する次世代のエネルギー論として大きな伏線を持っている点に注目しておきたい。ふたたびラクダを使った「なりわい」が将来復興されるだろうという未来先見性の背景には、地域住民の培ってきた在来知識がある。縄田氏が強調する研究の枠組みに地域の在来知があり、1000 年以上にわたり受け継がれてきた「なりわい生態系」の叡智の奥深さと、未来への課題を明らかにする視点は、長期的な視点を踏まえた地域研究のあり方として本財団の顕彰する研究に一石を投じるものとなるであろう。
縄田氏による一連の研究成果は現在も継続的に公表されており、その柱となる論集「アラブのなりわい生態系」では、マングローブ、ジュゴン、サンゴなど沿岸のエコトーンから海洋における資源だけでなく、伝統的農耕、樹木栽培、外来植物などの陸域における資源利用にわたって論考が展開されており、熱帯乾燥地域の人びとの適応と生存戦略を広く見渡して実施された研究として評価することができる。
また日本語、英語による研究成果の発信だけでなく、とりわけアラビア語による研究成果の出版は研究者、行政担当者、地域住民が研究資源を共有するうえで、地域と社会的還元に多大な貢献を果たしており、この点は特筆に値するものである。また出版物の一部は多くの写真を取り込んだオール・カラーで構成され、かならずしも識字率の高くない地域の住民が理解を深めるうえでも配慮がなされており、地域研究としてかえがたい役割を果たしている。
以上の点から、縄田浩志氏の研究が大同生命地域研究奨励賞に十分値するものとしてここに選考した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)