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高倉 浩樹 氏
略 歴

高倉浩樹

現職 :
東北大学東北アジア研究センター 准教授
最終学歴 :
東京都立大学大学院博士課程満期退学(1998年)
主要職歴 :
1997年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
1998年 東京都立大学人文学部助手
2000年 東北大学東北アジア研究センター助教授
2007年 同上准教授(職制変更による)
現在に至る
主な著書・論文
  1. 『極寒のシベリアに生きる―トナカイと氷と先住民』(編者)新泉社[2012]
  2. 『聞き書き 震災体験―東北大学90人が語る3.11』(共監修)新泉社[2012]
  3. 『極北の牧畜民サハ―進化とミクロ適応をめぐるシベリア民族誌』昭和堂[2012]

  4. 『シベリアとアフリカの遊牧民―極北と砂漠で家畜ととともに暮らす』(共著)東北大学出版会[2011]

  5. Good to eat, Good to live with: Nomads and Animals in Northern Eurasia and Africa(共編)[Northeast Asian Study Series 11, Center for Northeast Asian Studies, Tohoku University, 2010]

  6. 『ポスト社会主義人類学の射程』(共編)[国立民族学博物館調査報告72号、2008]

  7. Indigenous Ecological Practices and Cultural Traditions in Yakutia: History, Ethnography and Politics (編者)[Northeast Asian Study Series 6, Center for Northeast Asian Studies, Tohoku University, 2003]

  8. 『社会主義の民族誌―シベリア・トナカイ飼育の風景』[東京都立大学出版会、2000]

  9. 「生活様式としての遊動定住連続体-定住化政策後の森林ネネツの社会組織と居住」[『東北アジア研究』14号、2010]
  10. 「先住民問題と人類学-国際社会と日常実践の間における承認をめぐる闘争」[窪田幸子ほか編『「先住民」とはだれか』世界思想社、2009]
  11. The concept of manhood in post-socialist Siberia: The Sakha father as a wise hunter and a pastoralist. [Sibirica, 8(1), Berghahn Pub, 2009]
  12. 「生業文化類型と地域表象―シベリア地域研究における人類学の方法と視座」[宇山智彦編『講座スラブ・ユーラシア学第二巻 地域認識』講談社、2008]
  13. Indigenous intellectuals and suppressed Russian Anthropology: Sakha ethnography from the end of nineteenth century to the 1930s [Current Anthropology 47(6), 2006]
  14. 「18-19世紀の北太平洋世界における樺太先住民交易とアイヌ」[菊池勇夫ほか編『列島史の南と北』吉川弘文館、2006]
  15. Olenevodcheskie khoziaistova na Severe Yakutii: interpretatsiia kul'turnykh znachenii v kontorole olen'ikh stad. [Sovremennaia arktika: opit izucheniia i problemy. Yakutsk: IGI, 2005]
  16. An Institutionalized Human-Animal Relationship and the Aftermath: A Reproduction Process of Horse-bands and Husbandry in Northern Yakutia, Siberia [Human Ecology, 30-1, 2002]

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

業績紹介

「シベリア地域研究における新局面の開拓と展開」に対して

 高倉浩樹氏は、文化人類学の立場にたち、フィールドワークにもとづいて、わが国におけるシベリア地域研究の本格的な確立に寄与するとともに、国際的かつ学際的な共同研究を組織することによって、シベリア地域研究に新しい展開をもたらした。その貢献は、おおむね以下の4つの点にわけることができる。

 第一に、フィールドワークにもとづくシベリア地域研究を確立するうえで先導的な役割を果たした。高倉氏は、ソ連崩壊後フィールドワークが可能となったロシア=シベリアで日本人初の本格的長期の現地調査を、シベリアの先住民エヴェン人のコミュニティで実施した。その成果は、社会主義崩壊直後というタイミングであったことを活かして、綿密な民族誌『社会主義の民族誌―シベリア・トナカイ飼育の風景』にまとめられた。これは、わが国にとどまらず、国際的に先駆的な研究成果であると位置づけられる。高倉氏はその後もひきつづき積極的にシベリア各地におもむき、サハ人やネネツ人社会でのフィールド調査をおこない、数多くの民族誌的研究を蓄積している。とりわけ最近刊の『極北の牧畜民サハ―進化とミクロ適応をめぐるシベリア民族誌』は、日本でほとんど知られてこなかった東シベリア最大の民族集団について、その民族起源から現代にいたる長期の生業変化を理論的に解説したものである。

 第二に、地域間比較を通じた理論的考察をおこない、シベリア地域研究から文化人類学へ理論的な貢献を果たしている。地域間比較のひとつとして、北アジア、中央アジア、東アジアおよび北米北極圏など、文化史的に連関する世界のなかにシベリアを位置づける研究は、現在の政治的環境によって支配された、マイノリティや辺境という固定観念とはまったく異なる地域像をあきらかにした。また、もうひとつの地域間比較として、アフリカなど遠く離れた地域との比較によって、人類文化史という長い時間軸のなかにシベリアの現在を位置づけた。その成果は『シベリアとアフリカの遊牧民―極北と砂漠で家畜とともに暮らす』という読みやすい書籍にまとめられた。高倉氏の関心は、生態学や行政学・法学など多岐にわたっており、その探究心のひろがりが、ゆたかな地域像の構築を可能にしている。

 第三に、国際的発信力がきわめて高く、日本人研究者の国際的貢献を体現している。高倉氏は、文化人類学、生態人類学、シベリア地域研究など諸分野における国際的な査読制学術誌に数多くの論文を発表してきた。調査国であるロシアとの共同研究については、英語のみならずロシア語でも発表している。そのほか、北極圏研究を推進するフィンランドの研究者とのあいだでの共同研究もおこなわれている。地域研究のもつ国際的貢献の高さという点で、ぜひとも特筆しておきたい。

 第四に、シベリア地域研究に関わる学際的な共同研究を組織し、若手の育成やいわゆる文理融合に積極的に取り組んでいる。高倉氏が代表をつとめた国立民族学博物館の共同研究「ポスト社会主義における民族学的知識の位相と効用―制度としての人類学の多元的解明にむけて」(2004~2006 年度)は、東欧、ヨーロッパロシア、中央アジア、シベリア等の地域について、人類学、歴史学、考古学、法学など諸分野の若手研究者をあつめたプロジェクトであり、その成果は浩瀚な論集にまとめられた。また、現在進行中の総合地球環境学研究所による「温暖化するシベリアの自然と人:水環境をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応」では人文系グループの代表をつとめ、若手人類学者によるシベリア現地調査の機会を積極的に組織化するとともに、文理融合のシベリア地域研究を開拓している。すでに『極寒のシベリアに生きる―トナカイと氷と先住民』も刊行された。それは、人類学のみならず、言語学、生態学、水文学、土木工学など諸分野の専門家によってえがかれた地域誌であり、高倉氏の組織力と発信力の高さを雄弁にものがたっている。

 以上のように、高倉氏は、フィールドワークにもとづく綿密な調査、理論的な分析、そして学際的かつ国際的な組織力など、バランスよく研究を推進してきたという実績を有しており、さらに今後の展開が大いに期待される。

紹介者: 小長谷 有紀
(国立民族学博物館 教授)