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赤澤 威 氏
略 歴

赤澤 威

現職 :
高知工科大学 名誉教授
最終学歴 :
東京大学大学院理学系研究科人類学専門課程(1967年)
主要職歴 :

1968年 東京大学総合研究資料館助手

1976年 国立科学博物館研究員

1979年 東京大学総合研究資料館助教授

1993年 同上         教授

1996年 東京大学総合研究博物館教授

1997年 国際日本文化研究センター教授(2004年 名誉教授)

1997年 総合研究大学院大学文化科学研究科教授(2004年 名誉教授)

2004年 高知工科大学総合研究所教授

2015年 同上         名誉教授
現在に至る
主な著書・論文
  1. “Social Learning and Innovation in Contemporary Hunter-Gatherers: Evolutionary and Ethnographic Perspectives.” (H. Terashima and B. Hewlett 編著) Springer RNMH Series No. 4. 2016 (印刷中)

  2. “Learning Strategies and Cultural Evolution during the Palaeolithic.” (A. Mesoudi and K. Aoki 編著) Springer RNMH Series No. 3. 2015

  3. Dynamics of Learning in Neanderthals and Modern Humans. Volume 2: Cognitive and Physical Perspectives.” (共編著) Springer RNMH Series No. 2. 2014

  4. Dynamics of Learning in Neanderthals and Modern Humans. Volume 1: Cultural Perspectives.” (共編著) Springer RNMH Series No. 1. 2013

  5. 『人類の移動誌』(共著)臨川書房. 2012

  6. 『人類大移動:アフリカからイースター島へ』(共著)朝日新聞社. 2012

  7. “From the River to the Sea: The Paleolithic and the Neolithic on the Euphrates and in the Northern Levant.” (共著) Cambridge: BAR International Series 1263. 2004

  8. Neanderthal Burials: Excavations of the Dederiyeh Cave, Afrin, Syria.” (共編著) Auckland: KW Publications. 2003

  9.  “Ice Age Peoples of North America: Environments, Origins, and Adaptations of the First Americans.” (共著) Oregon: Oregon State University Press.1999

  10. Neandertals and Modern Humans in Western Asia.” (共編著) New York: Plenum Press. 1998

  11. Prehistoric Mongoloid Dispersals.” (共編著) Cambridge: Oxford University Press. 1996

  12. Humans at the End of the Ice Age. The Archaeology of the Pleistocene-Holocene Transition.” (共著). New York: Plenum Press. 1996

  13. 『モンゴロイドの地球』(共編著) 東京大学出版会. 1995

  14. The Evolution and Dispersal of Modern Humans in Asia.” (共編著) Tokyo: Hokusensha. 1992

  15. The Other Visualized: Depictions of the Mongoloid Peoples.” (共編著) University of Tokyo Press. 1992

  16. The Archaeology of Prehistoric Coastlines.” (共著)Cambridge: Cambridge University Press. 1988

  17. “Hunters in Transition: Mesolithic Societies of Temperate Eurasia and their Transition to Farming.” (共著)Cambridge: Cambridge University Press. 1986

  18. Prehistoric Hunter-Gatherers in Japan: New Research Methods.”  (共編著) University of Tokyo Press. 1986

  19. Windows on the Japanese Past: Studies in Archaeology and Prehistory.”  (共著)Michigan: Center for Japanese Studies. 1986

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :1989年  学術博士(東京大学)

業績紹介

「西アジア地域を基盤とした人類史構築への卓越した学術的貢献」に対して

 赤澤威氏は西アジアをフィールドとする世界的な評価を得ている先史考古学・人類学研究者である。


 西アジア地域は、アフリカで誕生した初期人類と現世人類(ホモ・サピエンス)が地球全域に拡散してゆく過程で最初に通過した地域であり、人類史を研究する上で重要な地域の一つである。同地域では、長らくヨーロッパ各国が人類学・考古学的調査を主導して行ってきたが、1961年以降は、日本も東京大学を中心とした調査隊を送り込み、ネアンデルタール人骨を出土したアムッド洞窟の発掘調査など、重要な成果を上げてきた。

 同氏は1967年に組織された「東京大学西アジア洪積世人類遺跡調査団」のメンバーに加わって以来、約50年にわたって西アジアにおいて先史人類学の研究を精力的に進めてきた。レバノン、シリア、ヨルダンなど広い地域で初期人類の遺跡探査を継続して行うなかで、旧石器遺跡を中心とする数多くの遺跡を発見・調査し、石器類や人骨片など国際的に注目される発掘資料を着実に蓄積していった。

 その間、国内では、1989年~1992年に100人もの人文科学、社会科学、自然科学分野の研究者が参加する分野横断型の大型プロジェクト「先史モンゴロイド集団の拡散と適応戦略」(文部省科学研究費補助金重点領域研究)を組織し、人類の拡散の歴史とメカニズムを地球規模で解明した。この画期的な研究の成果は、国内外で出版され国際的にも高く評価された(Akazawa, and Szathmary (eds.), Prehistoric Mongoloid Dispersals. 1996, Oxford University Pressなど)。氏は、このプロジェクトを通して地域研究の総合化を推進した功績により、1993年に大同生命地域研究奨励賞を授賞した。

 同年、同氏がそれ以降に開始するさらにスケールの大きな研究につながる重要な発見があった。シリア北西部のデデリエ洞窟でその数年前から現地の研究者と共同で続けていた発掘調査によって、考古学者が夢にまで描くネアンデルタールのほぼ完全な骨格を発掘したのである。当時、ネアンデルタール人骨は西アジアやヨーロッパなど各地で見つかっており、その数は数百にのぼっていたが、ほとんどが断片的な骨資料で、保存の良い全身骨格の揃った資料は初めてであった。

 この貴重な子供の埋葬骨資料は、日本で詳細な研究が行われ、ネアンデルタールの復活プロジェクトへと展開した。赤澤氏を中心とする人類学やコンピュータサイエンス、美術解剖学などの専門家を含むメンバーは、全身骨格を復元した上で、さらに肉付けした復元人像を作成し、CGを駆使して歩行する動きを科学的に再現させることに成功した。出土人骨の計測のみに終わらない、同氏のスケールの大きな学術的企画力と実行力がここでも発揮された。それまでほとんど具体的なイメージが復元されてこなかったネアンデルタール人について刺激的な成果を世界に広く示すことに成功したのである(Akazawa and Muhesen (eds.), Neanderthal Burials: Excavations of the Dederiyeh Cave, Afrin, Syria. 2004, KW Publicationsなど)。


 2010年からは、西アジアに研究の根幹をおきつつ、人類の進化史を正面に据えた大型プロジェクトを組織した。当プロジェクトは、我々現生人類が最終的に生き残った真相を解明するため、西アジアを中心に多く発掘されているネアンデルタール人骨および使用していた道具類を、現生人類のそれらと比較する壮大な内容で、考古学、文化人類学、理論生物学、環境科学、化石工学、脳科学など多様な専門分野の研究者が多数参加した。「ネアンデルタールとサピエンスの交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究(2010-2014)」(文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究)として行われたこの研究では、脳の構造や機能、そして互いの学習能力の進化的違いが交替劇を生んだという仮説を立て、多様な分析研究を行った結果、両者の命運を分けたのはイノベーション能力の違いであったことを実証して世界を驚かせた。

 世界的に見てもこれほど明確な研究目標をもって国際的に多くの研究者を巻き込んで行われたプロジェクトは数少なく、特に西アジアの先史人類遺跡や考古遺物に関して作成されたデータベースは大変貴重なものとなっている。研究成果は、科学分野の大手出版社SpringerからReplacement of Neanderthals by Modern Humans Series (全10巻)として2013年から継続刊行されており、国内外の主要な学術雑誌に好意的な書評が掲載されるなど、世界的に反響を呼んでいる。

 同氏は、「過去から未来へ総合的に人間の歴史を知ることを可能にするのが21世紀のフィールドサイエンスである」という強い信念のもとに、歴史の重層した西アジア地域において、学際研究のもたらす推進力によって旧石器時代を総合的に描き出すことに成功し、新しい地域研究のあり方を発展させてきた。同氏が進めてきた研究は、オリジナリティの高さをはじめ、国際化や一般化の側面も兼ね備えたもので、その学問功績は顕著である。 

 

 よって、選考委員会は一致して大同生命地域研究賞を授与することを決定した。

(大同生命地域研究賞 選考委員)