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岡本 正明 氏
略 歴

岡本 正明

現職 :
京都大学 東南アジア地域研究研究所 教授
最終学歴 :
京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程 研究指導認定退学(1999年)
主要職歴 :

1999年 京都大学 東南アジア研究センター 非常勤研究員

2001年 国際協力事業団(JICA)専門家

    (スラウェシ地域開発政策支援)

2003年 京都大学 東南アジア研究センター 助教授

2013年 ハーバード大学 イェンチン研究所 シニア研究員

2014年 コーネル大学 東南アジアプログラム 客員研究員

2017年 京都大学 東南アジア地域研究研究所 教授

     現在に至る
主な著書・論文
  1. 岡本正明 2018年2月, 「もう一つの油戦争―不健康なパーム油という言説,その対抗言説の誕生と発展―」『東南アジア研究』第55巻第2号,  217-239頁【単著】

  2. Okamoto Masaaki 2017年8月, Politik Waria dan Tanda Demokratisasi Tahap Kedua di Indonesia: Relawan Waria untuk Jokowi-JK pada Pilpres 2014. Ahmad Suaedy ed. Perubahan Karakter Gerakan Sosial di Indonesia dalam Partisipasi Politik Pilpres 2014. Abdurrahman Wahid Center-University of Indonesia. pp.217-241【単著】

  3. 岡本正明 2017年7月,「インドネシアにおける暴力をめぐる公私のポリティクス」村上勇介・帯谷知可編『多元多層の共存空間─「環太平洋パラダイム」の可能性』京都大学学術出版会, 195-220頁【単著】

  4. 岡本正明 2017年3月,「インドネシアにおける政治の司法化、そのための脱司法化:汚職撲滅委員会を事例に」、玉田芳史編著『政治の司法化』, 93-120頁【単著】

  5. 岡本正明 2016年3月, 「民主化したインドネシアにおけるトランスジェンダーの組織化と政治化、そのポジティブなパラドックス」『イスラーム世界研究』第9巻, 231-251頁【単著】

  6. 岡本正明 2015年6月、『暴力と適応の政治学-インドネシア民主化と安定の地方構造』京都大学学術出版会.【単著】

  7. 岡本正明 2015年3月,「ユドヨノ政権の10年間:政治的安定・停滞と市民社会の胎動」川村晃一・東方孝之編著『新興民主主義大国インドネシア―ユドヨノ政権の10年と2014年選挙―』(ジェトロ・アジア経済研究所), 159-184頁【単著】

  8. Okamoto Masaaki 2014年4月, Jakartans, Institutionally Floatable, Journal of Current Southeast Asian Studies Vo.33, No.1, pp.7-28【単著】

  9. 岡本正明 2012年2月,「逆コースを歩むインドネシアの地方自治:中央政府による「ガバメント」強化への試み」船津鶴代・永井史男編『東南アジア:変わりゆく地方自治と政治』(ジェトロ・アジア経済研究所), 27-66頁【単著】

  10. Ota Atsushi, Okamoto Masaaki and Ahmad Suaedy eds. 2010年12月, Islam in Contention: The Rethinking of Islam and State in Indonesia. Jakarta: CSEAS, CAPAS and Wahid Institute. x+468p.【編著】

  11. Okamoto Masaaki 2009年9月, Populism under Decentralization in post-Suharto Indonesia. In Mizuno Kosuke and Pasuk Pongpaichit (eds.), Populism in Asia, NUS, pp.144-164【単著】

  12. Okamoto Masaaki 2008年10月, Jawara in Power, 1998-2007, Indonesia 86, pp.109-138【単著】

  13. 岡本正明 2006年8月,「分権化に伴う暴力集団の政治的台頭-バンテン州におけるその歴史的背景と社会的特徴」、杉島敬志・中村潔編『現代インドネシアの地方社会:ミクロロジーのアプローチ』NTT出版, 43-66頁【単著】

  14. Okamoto Masaaki and Abdur Rozaki eds. 2006年8月, Kelompok Kekerasan dan Bos Lokal di Indonesia Era Reformasi, Yogyakarta: IRE Press. xxii p.+161p. 【編著】

  15. 岡本正明 2005年6月,「インドネシアにおける地方政治の活性化と州「総督」の誕生-バンテン地方の政治:1998-2003」『東南アジア研究』第34巻第1号, 3-25頁【単著】

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :2013年  地域研究論文博士(京都大学)

業績紹介

インドネシアの民主化・自由化がもたらす政治変容の多面的側面の研究」に対して

 

 岡本正明氏は、政治学者として、地域研究者として、東南アジア、とりわけインドネシアの政治社会に深く広く分け入り、その民主化や自由化の影響と意義をめぐる理論と実証について、質の高い研究を発信し続けている研究者である。

 

 同氏の研究は、ミクロな地方の政治社会変容を、国政レベル、さらには東南アジアレベルでの政治社会変容の文脈に位置づけて論じるという姿勢で一貫している。

 

 具体的には、地方政治、LGBTに関する研究、アブラヤシの政治経済、に大別される。

 

 地方政治研究では、従来国政や国軍の研究に集中しがちだったインドネシアの政治分析ではみえてこなかった地方の論理を、民主化・地方分権化時代の同国における暴力集団への体をはったフィールド調査に基づいて明らかにした。その成果をとりまとめた『暴力と適応の政治学』(京都大学学術出版会、2015)は、民主化後のインドネシア地方政治の安定化のロジックを克明に描き出したものであり、政治学の議論と地域研究の醍醐味を架橋した力作である。その後、東南アジア首都圏の政治研究も進め、ジャカルタの政治研究の特集号をドイツの英文学術誌(Special Issue: Local Politics in Jakarta, Journal of Current Southeast Asian Studies,Vol.33.No.1, 2014)(本名純と共編著)に掲載し、首都の持つ政治的特殊性と一般性を多角的に検証し、注目を浴びた。また、地方エリートサーベイなどを行い、量的な地方政治分析にも着手し始めている。政治と暴力の分野では、東南アジアにおけるフォーマルな暴力装置とインフォーマルな暴力装置の連続性に着目しながら、経済自由化のもとでの暴力の民営化についての研究を進めており、インドネシアの各種事例を取り上げたインドネシア語編著本(Kelompok Kekerasan dan Bos Lokal di Indonesia Era Reformasi,IRE Press, 2006)(アブドゥル・ロザキと共編)は現地の有名誌でも取り上げられた。さらに、インドネシアだけでなく、ミャンマーやマレーシアなども視野に入れ、東南アジア各国の暴力の民営化比較を行っている。

 

 近年は、政治と暴力研究において、暴力を行使・利用するアクターではなく、その攻撃の対象であり被害者ともなってきたトランスジェンダーに着目した政治研究も始めている。インドネシアでは民主化・分権化とともに、多様なアクターが政治参加を求め始めた。トランスジェンダーを含めたLGBTも例外ではなかった。トランスジェンダーはこれまで差別され、警察やイスラーム組織の暴力に晒されてきたが、組織化していく中でエンパワーメントされていった。2014年の大統領選挙の際は、全国的に張り巡らされたネットワークを駆使して多元主義を標榜する候補者の支持に回るまでになった。岡本氏は、イスラーム圏で初めてとも言える、この画期的なLGBTの政治運動に着目して日本語(「民主化したインドネシアにおけるトランスジェンダーの組織化と政治化、そのポジティブなパラドックス」『イスラーム世界研究』第9巻、2016)並びにインドネシア語(Politik Waria dan Tanda Demokratisasi Tahap Kedua di Indonesia:Relawan Waria untuk Jokowi-JK pada Pilpres 2014, Ahmad Suaedy ed. Perubahan Karakter Gerakan Sosial di Indonesia dalam Partisipasi Politik Pilpres 2014, Abdurrahman Wahid Center-University of Indonesia, 2017)で論稿を出版した。

 

 また、東南アジア、とりわけマレーシアとインドネシアで拡大するアブラヤシ生産と土地収奪に関する政治経済学的研究を共同で進め、学術界を超えた多様なアクターを巻き込み、世界的にも傑出した実証研究を含む最先端の成果論集(特集「アブラヤシ農園拡大の政治経済学―アクター・言説・制度の視点から」、『東南アジア研究』第55巻2号、2018)(林田秀樹と共編著)を刊行した。アブラヤシ栽培の急速な拡大を可能にする制度、言説、アクターを複合的に分析する試みである。さらに、フューチャー・アース・プログラムなどを通じて、アブラヤシ栽培を行う小農コミュニティのエンパワーメントにも関与している。インドネシア・リアウ州において、現地NGOと連携して、衛星画像やドローンを使って参加型地図づくりを行い、その地図をもとに村落の発展を考えていく試みである。多くの村では未だに村境が確定していない状況下で、小農自らが村内の土地所有を空間的に把握し、村境を確定すること自体が極めて政治的営為であるということを明らかにしようとしている。

 

 これらの多岐にわたる研究成果を積極的に海外で発信しているだけでなく、ハーバード大学イェンチン研究所やコーネル大学東南アジアプログラム、シンガポールの東南アジア研究所で客員教員を務めるなどしており、海外の研究機関とのネットワークづくりを主導している。また、シンガポールの東南アジア研究所の学術誌Sojournやガジャマダ大学の東南アジア社会研究所の学術誌The Indonesian Journal of Southeast Asian Studiesの編集委員も務めている。

 

 以上のように、世界レベルで東南アジア地域研究を牽引していく研究者としての岡本氏の業績を高く評価し、また今後のさらなる研究展開に期待して、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)